『秋恋』『一輪のコスモス』『未知の交差点』
「ナムナムナム」
俺は今、道端に祀られているお地蔵さまに拝んでいた。
交差点にぽつんと置かれたお地蔵さま。
大事にされているのか、小綺麗にしてあった。
作法がよくわからないので、呪文は適当だが、その分熱心に拝む。
こういうのは気持ちが大事、きっと想いは通じることだろう。
特に信心深いわけでもない俺がこんな事をしているのには理由がある。
理由は単純、俺は絶賛現在進行系で困っているから。
都合が良すぎると非難を受けそうだが、背に腹は代えられない。
俺は今、遭難しているのだ。
とある休日、車でとある農家に向かっていた。
俺は園芸ご趣味で、特にコスモスが好きだった。
最初は郵送して欲しいと交渉したが、『直接来ないと譲らない』の一点張り。
仕方なく住所を聞き出し、こうして農家に直接向かうところだったのだが……
もう少しで目的地というところで、
ここはどこにもわからぬ未知の交差点。
途方に暮れていた。
スマホは圏外で助けも呼べぬ。
山に囲まれているからか、電波が入らずカーナビ代わりのスマホも機能しない。
コンビニどころか人の気配のしない山奥で、俺は遭難していた……
なぜこんな知らない土地に来たのか?
それは、幻のコスモスを手に入れに来たのだ。
この辺りの農家でしか育てられていない、希少価値の高いコスモス。
現地で数量限定で販売されるそれは、この山奥でしか栽培されていない。
他の愛好家たちに取られまいと、ここまでやってきたのだが……
「田舎すぎて、誰も来てなかったな……」
農家の人曰く、数量限定で販売するものの、買いに来る人が少ないので、毎年売れ残るとのことだ。
「お裾分けだよ」
そう言って、苗から一輪のコスモスを摘み取って、お地蔵さまの前に
だが不思議な感覚がある。
全くの未知の交差点だと言うのに、とこか見覚えがあるのだ。
だが全くふと足元を見ると、一輪のコスモス……
何か、思い出そうとして……
「もし、そこのお方」
10/16/2025, 10:32:02 AM