まぐ

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星のない空だった。観衆がいない方が都合がよかったため、私は満足だった。
フェンスによじ登り、空を背に座る。少し体勢を崩せばすぐに私は夜の中。
私は今日、月に願う。どうか少しだけ見守っていてほしいと。それ以上のことは望まない。ただ今この一瞬だけ、そばにいてほしいと。
見上げた月は、何も言わなかった。星はよく人に願われるけれど、月はそうでもない。だからきっと戸惑っているのだ。そう思ったらおかしくて、愛おしくて、私は──月を抱きしめに、あの空へ向かって飛び出した。

5/26/2023, 11:36:20 AM