「どうしよう」
目の前に迫り来る避けられない危機に少女は弱々しい声でそう呟いた。いつも溌剌とした声で笑う少女の珍しい姿に少し緊張しながら少年はその手を取る。
「大丈夫だよ。ボクが一緒にいるから」
「ほんとう?」
「うん。一人にはしないよ」
少年の言葉に嬉しそうに、申し訳なさそうにくしゃりと顔を歪めた少女は縋るように手を握り返す。
すると少年と少女が微笑み合うその瞬間を見計らったかのように二人の頭上にそれは落ちた。手を繋いだままの二人の小さな身体が跳ねる。
「反省してるなら怒鳴ったりとかしないから、そんな世界の終わりみたいな顔しないでよ」
触らないようにと言い聞かされていた花瓶を割ってしまった娘とそれに寄り添う少年の頭を宥めるようにわしゃわしゃと撫でながら、母親は日頃の怒り方を少し反省したのだった。
/嵐が来ようとも
7/29/2023, 1:42:05 PM