『違う温度』
はぁとため息が口から漏れる。物憂げな空と同じく、私の気分も晴れなかった。いつもより上手くまとまらない髪を指に巻き付けながら口を開く。
「なに、何の用?」
そう問いかけながら振り返ると、予想通り彼が立っていた。目を見開いていたが、直ぐに苦虫を噛み潰したような顔に変わって思わず笑ってしまう。
「あら、どうしたの?そんな顔して?」
「……別に」
そう拗ねたように顔を背ける彼に益々笑いがこみ上げてくる。そんな空気を正すように、彼は咳払いをした。
「……あいつがついに力に目覚めた」
その言葉に、髪を巻き付けていた指が止まる。指から髪がするすると解けていった。
「そう…あの子が……」
恐れていたことが起きてしまった。今はまだ大丈夫かもしれない。でも特別な力を持ったあの子が暴走なんてしたら……
そんな最悪のケースを考えこんでいると、いつの間にか彼が隣に来ていた。彼にそっと手を取られる。彼の手は私の手より暖かく、私の手にじんわりと熱が移っていくようだった。
「俺と一緒に来ないか」
彼の目はいつになく真剣だった。その目から逃げるように目線を外す。無意識に噛んでいた唇を緩め、息を吐き出した。
「…ごめん、私は私のやり方であの子を見守るから」
そう言い、繋がれていた手を外す。
彼は少しの間のあと「わかった」と言い、くるりと踵を返した。彼の白いコートも一緒にふわりと翻る。コツコツと足音を鳴らして去っていったかと思えば、すぐにその足音は止まった。
「……必ず後で迎えに行く。それまでに心の準備をしておけ」
その言葉に急いで彼の方を振り返るが、そこにもう彼はいなかった。
私は先程まで繋がっていた手を見つめ、無くなった温度を取り戻すように手を握った。
【物憂げな空】
2/25/2026, 3:47:26 PM