八月、夏休み真っ只中の僕を訪ねる者が居た。心当たりの無いインターホンの音に目覚め、欠伸をしながら玄関へ向かう。
「ふぁあ…ねむ……」
大学生は夏休みが長いから、つい眠り過ぎてしまう事もある。というか、ほぼ毎日10時間以上睡眠している。小さい頃から夢を見る事が大好きだったから、自然と眠りも長くなっていった。保育園時代はお昼寝の時間に起きられなくて何度も叱られた。今となっては良い思い出である。
「先輩、寝起きですか」
「………え?」
ドアを開けた瞬間、僕は思わずそう言ってしまった。高校時代の後輩である木更津くんが居る。何の用で来たのだろうか。疑いつつも、どこか満更でも無いと思ってしまう自分が居た。
「俺、京都行ってきたんでそのお土産です。先輩には絶対渡したくて来ました」
「そ、そうなんだ…ありがとう」
紙袋を除くと、それはお菓子らしかった。金箔押しの高級そうな文字で抹茶チョコ餅と書いてある。僕が抹茶が好きである事をいつの間に知ったのだろうか。というか、お土産を渡す為だけに彼はここに?決して家も近くない筈なのに、僕に会いに……?
「…もし良かったらゆっくりしていかない?」
久々に会えたんだ、このまま帰らせるのも勿体無いし、彼がこの後も時間があるというなら少し話でもしたい。
「先輩が良いなら是非…!俺は今日も明日も暇なので、お泊りも出来ます」
「さ、流石にそれは飛躍しすぎだよ…!!順序っていうものがあるじゃないか…」
「…ん?どういう意味ですか?」
首を傾げてとぼける彼。本当に分かっていないのだろうか、彼の行動パターンから察するにきっと僕の事が好きなんだろうけど、それを隠しているつもりなのか……?それとも僕の勘違い?いやそれは無いな。
「じゃあお邪魔します…先輩?どうしたんですか?」
「…木更津くん、僕は別に君が誰を好きでも構わないよ」
「は?何の事ですか、先輩。さっきから訳の分からない事ばかり…」
そうやって僕をまた騙すつもりなのか、それとも本当に僕に好意を抱いていないのか。僕にも訳が分からないよ。
8/28/2024, 1:58:06 PM