こより

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 好きな人を例えるならば、なんだろう。この世の全ての美しい言葉を集めたってこの人は形容できないけれど、ひとつ選ぶなら。それはきっと『月』だ。夜闇に喘ぐ人々をやわらかな光で明るく照らしてくれる。そういう人だもの。
 そんなことを考えながら隣で眠る好きな人を見る。彼女の寝顔は世界で一番静かで厳かで神聖で、祈り慈しむべき絵画のように感じた。
 声が聞きたい。触れてほしい。そう思った瞬間、わたしの頭は使い物にならなくなった。否、もとからそうなのかもしれない。
 起きてほしい。起きて、わたしに触れて、やわらかく笑ってよ。莫迦みたいに彼女のことしか考えられない。この世のものとは思えないほど美しい彼女を前に、彼女を渇望してやまない自分の欲深さに頭を掻き毟るほどに絶望した。わかっている。眠りについた彼女を起こすなんて、なんて罪深いのだろう。浅ましいのだろう。それでも。

 「……ごめんね、耐えられないの。耐えられなかったの。あなたがいないことに」

 本当に、苦しかった。彼女を喪ってからの日々は、どうしようもない地獄が肚の底に住み着いて息ができなかった。あの子がいない世界はこんなにも暗闇に包まれていることに、あの優しいやわらかな光が二度と手に入らないことに、深く絶望した。
 
 土の中から掘り返した冷たい彼女の体を抱きながら、いつか彼女が語ってくれた話を思い出す。昔の人は月の満ち欠けに「死と再生」の連続性を見出していたらしい。新月は死、満月は魂の再生のシンボルとしていたとか。

「生き返らせるには最適な天気だな。あなたは許してくれないだろうけどね……それでもいいよ」

どんなに怒られても恨まれても、あなたがいない世界よりずっといいんだ。

今日は一番大きな満月。やわらかな光が満ちてる。



お題/やわらかな光

10/17/2024, 9:46:50 AM