入道雲

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モンシロチョウが飛んだ。僕の鼻先を掠めた花の様な、草の様な、あの独特の香りに顔を顰めた。
「そんな顔すんなよ」
虫相手に。隣を歩く彼はそう笑って道端の花に止まったそのモンシロチョウを広く大きな手で包み込んだ。そのまま僕の前に持ってくるから「やめろよ」と思っ切り睨んでやると彼は特徴のある笑い声をあげてチョウを逃した。
「わたしは、愚かな蝶でした」
「何それ」
「詩。蝶々に関する、…なんだったかな、タイトル」
覚えとけよそこは。彼はまた特徴のある笑い声をあげる。ふと前を通ったチョウを追いかけて僕の先を走る。
 ────悲しみの糸を吐くあなたという蜘蛛に魅せられ涙の夢のようなきらめきに我を忘れて飛び込んだ。
「愚かな蝶でした」
モンシロチョウが、少し、ほんの少し、羨ましい。
あのチョウは僕が触れもしないあの手に包まれたのだから。

5/10/2023, 10:16:25 AM