水晶

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『雪を待つ』

空に掛かる厚い雲を見上げながら息を吸い込むと、冷たい空気が鼻の奥に突き刺さる。これは…もしかして。

私は愛用の一眼レフをバッグに詰めると、車で山へ向かった。趣味で撮った写真をコンテストに応募し始めたのが丁度1年前。今回たまたま目にしたのは市の募集だった。「あなたの好きな場所」と題して市の魅力をアピールするもの、との募集要項を見てある場所を思い出した。

家からほど近い鬱蒼とした山の中腹に一カ所だけ木々がぽっかりと空いた場所がある。下を覗くと連なる山々と、運が良ければ川に架かる鉄橋を渡る電車が見え、更に遠くには薄っすらと海と島も見える。
あるのは大自然だけ。でもそれがいい。後はここに…。そう思っていると待っていた雪が舞いはじめた。そろそろ電車の通過時刻だ。私はカメラを構えてじっと待った。

雪の白に電車の赤が映えると評された私の写真は、市の観光PR大使賞に選ばれ来年2月の市報の表紙を飾る。

12/16/2024, 9:26:53 AM