【紅茶の香り】
「いいのが手に入った。ので、お前を誘おうと思う。」
「誘い方下手くそ過ぎだろお前。」
その日は陽射しが出ていて風が頬を掠める気持ちのいい日だと思えた。それなのにも関わらずこの人間離れした美貌とこれまたモデルかと思う程の体型をした男…有角幻也から茶の誘いを受けるとは不運に尽きるだろう。
大体、なんで誘うのが俺なんだよ。ユリウスとかヨーコさんとかでもいいだろ。なんで誘うのが俺なんだよ。気まずくなるのは目に見えるだろう。
「…」
「…」
自分のカップに紅茶が注がれるのをじっと見つめる。それは感動とか綺麗とかそんな大層な感情なんかではなく、ただ単に有角と目が合わせられないだけだった。
「飲まないのか、蒼真」
ちげーよ。お前がじっと見てくるからだよ。飲めないんだよ。
心の中で悪態をつく。この男は鋭いのか鈍いのかよく分からなくなる。本当に、なぜこいつは俺を誘ってきたのだろう。俺も俺でなんでこいつの誘いを受けたのだろう。後悔した。心の底から本当に後悔した。
「…飲むって。」
紅茶の入ったカップを持ち上げて自分の口に近づける。仄かに香った紅茶の香りが、懐かしく感じた。これまで自分は紅茶なんて飲んだこと無かった。なのに、なぜ懐かしく感じたのだろう。
一口飲んで、カップを置く。
「どうだった」
有角の方を向く。相変わらず綺麗な顔をしていた。嫌になるくらい。
「初めてだし、いいとかよく分かんないけど…まぁ、美味しい?んじゃないかな」
「そうか」と言って目を伏せた有角を見ていた。
その時、風がふいてきた。暖かい、優しく頬を撫でるような風。有角の長い黒髪は風に靡いた。
10/28/2023, 9:30:07 AM