【雨と君】
母の葬儀の日。父は帰ってこなかった。
わたしたちはバラバラに砕け散ってしまった。
母が亡くなったのはわたしに責任がある。
わたしは能力値が満遍なく高く、ビジュアルもすこぶる良い。猫を被っているのでクラスメイトはもちろん、保護者や先生からの〝ウケ〟もダントツ良かった。
わたしたち、母子を襲った女が叫んだ要領を得ないとっ散らかった話を要約すると。
わたしの母になりたかった。おまえのような女が母親なんて可哀想。おまえさえいなければ…。
という具合。
父がわたしを恨むのは当然だ。誰にでも良い顔をし、八方美人のツケを母に払わせたのだから、仕方ないこと。
母は父を変えた人誑しだ。圧倒的光属性という感じ。でなければそれまで、ヒモとして女の元を転々としていた彼が家庭に属したり、子どもを持ったりなんてなかっただろう。
父は不器用なりに真剣だった。
わたしを恨んでいる。憎い…。けれど愛している。
だから恨みをぶつけるなんて堪えられないし、愛を包むことに苛立ちと哀しみを覚える。
わたしも、父に(当然と解っていても)恨まれるには覚悟を決めなければ耐えられない。
だから丁度よかったのだ。父が家に寄り付かず、被った化けの皮が剥がれ落ち、独りぼっちになったとしても。
自分を守って独りになるなら、誰かを守って独りがいい。優越と孤独に身を浸して生きるのだ。
母が命懸けで守ったこの〝タスク〟を果たすまで。
雨が降っている。あの日からずっと、途切れず止まず。
9/7/2025, 9:23:31 PM