与太ガラス

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 今日も上司に詰められている。売上が届かない。資料の修正が遅い。企画書の内容が薄い。

「係長なら係長の役職に見合う仕事をしてください。あなたが成長しなければ、会社も成長しませんよ」

「はい、すみません」

 今日も謝ってばかりだ。なんとか解放されて会社を出ると、妻から「醤油買ってきて」というメッセージが入っていた。やることが積もりに積もったまま、帰り道も憂鬱だ。

 あー、いっそ隕石でも降ってきて、全部なくならないかなー。

 空を見上げて叫ぶ。すると空から大きな黒い塊が降ってきて…え、え? え!?

「どーん!」

「ぐはぁ!」

 お腹のあたりに突然大きな衝撃が走った。目を開けるとユウキが私の上に乗っていた。これはあれか、変な夢から覚めるときのパターンか。

 「おとうさん、きょうはあそべるんでしょ! はやくおきて!」

 そうか、今日は休日でユウキと遊ぶ約束をしていた。私にとっても最近の楽しみはこれだけだと言っていい。

 いつの間にかユウキは6歳になっていた。ユウキはスマホよりひと回り大きい子ども向けのゲーム機を取り出した。タッチ操作ができるものだ。

「これ! パズルのゲーム。ぼくがやるから見てて」

 そう言うとユウキはパズルゲームを始めた。自分の子どもの頃との環境の違いにただただ圧倒される。ユウキは器用に細かいピースをつなげていき、あっという間にパズルを完成させた。

「すごいなユウキ! こんなパズルもできるのか!」

 我が子の成長に手放しで喜ぶ。最近はお父さんの方ができないことが多いんじゃないかと思う。

「つぎはおとうさんの番だよ! はいどうぞ!」

 そう言って新しい盤面を渡された。いまいちルールもわからないまま始めたが、画面を見ると制限時間がついている。

 え、うそ、全然わかんない。

 あちこちピースをつなげてみるが、まったく上手くハマらない。いろいろ試行錯誤をしているうちにタイムオーバーになってしまった。画面の中で小さいヒヨコのキャラクターが「ざんねん!もういっかい!」と言いながら泣き顔を作っている。

「おとうさんもまだまだだな」

 顔を上げるとユウキがニコニコ笑っている。私はその大人びた言い方が妙におかしくて笑ってしまった。

 「そうだな、お父さんまだまだだな!」

 私はユウキの顔に手を伸ばし、頭をくしゃくしゃの撫でた。

「よーし! じゃあもう一回やらせて! お父さん今度はがんばるから!」

「もーしょうがないなぁ」

 そうだよな。お父さんも同じだ。まだまだ成長できる。

 お父さんも、君と一緒に成長していこう。

1/7/2025, 2:07:00 AM