喜村

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 春分の日がすぎ、どことなく日が長くなってきた。夕方五時を過ぎているのにまだ明るい。
 いつも彼がきているラーメン屋。器や小物が写真と同じで、たまに窓際の席から写っていた景色もまさにこれだ。やっと見つけた。
 彼はたまに自撮り写真も撮っていたので、顔は把握している。後は彼が入店するであろう時間まで張り込みをすれば、彼に会える。完璧。
 やっとSNSで恋をした見知らぬ男性に会える、そう思っただけで胸が弾んだ。

「別に迎えに来なくてよかったのに~」
「この子がパパを迎えに行くって聞かないから」
「早くパパに見せたいものがあるの! 急いで帰ろ~!」
 親子連れとすれ違った。ツインテールの可愛い女の子とショートカットなスレンダーママにスーツ姿のパパ。絵に描いたような理想なご家族だ。

--ちょっと待って、今のパパ

 私は目を見開いた。すれ違った瞬間に、振り返る。
どこからどうみても、あの私の恋い焦がれていた彼である。
 でも「パパ」と呼ばれていた。彼女がいるでなく、この人は妻子持ちだったのか。
なのにこの男は複数の女性にSNS上で声をかけていた。きっと最近音沙汰がなくなったのは、奥さんにでもバレたから……?
 私は口の端が緩んだ。
「……バカみたい」
 パパの耳にそれが届いたのか、パパは私に目をやった。目があった。切れ長でやはり惚れてしまいそうになる。
あぁ、今の私は一体どんな顔をしているのだろう。
「パパ~?」
「あ、うん。なんでもない、行こうか」
 手を繋いで家路を辿る一家。
それを私は、どんどん暗くなっていく夕方の空のように眺めていた。
もう闇夜はすぐそこまで近づいていた。

【バカみたい】
※【Love you】の続き

3/22/2023, 2:00:35 PM