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 俺が生きていた時に貴女へ抱いていた気持ちは、もしかすると恋だったのかもしれません。

 親の顔も知らずに育ち、俺は誰からも愛を与えられた記憶がありませんでした。
 貴女は、そんな俺にめいっぱいの愛をくださいました。あんな狼藉を働いた人間を、どうしてあんなにも愛することができるのか。心からありがたく思いながらも、俺には今でも理解できません。
 ともあれ、貴女と出逢ってからは、そうして俺を愛してくださった貴女こそが俺の世界の全てでした。

 そうですね、あれはきっと恋だったのです。
 貴女が俺の旅の終わるのを待たずに亡くなっていたと知った時、散々一人で泣き喚いた末に、俺は貴女の後を追うと決心し、貴女を悼む碑の前に座り続けて死にました。それは、貴女を恋い慕っていたからの行動だったのでしょう。

 貴女は、俺への遺言を残してくださいました。
 
 「私の愛はもう与えることができませんが、それは貴方の中に息づいています。それを持って生きなさい。それが私の望む、私の愛への報いです」
 貴女はそうおっしゃって、微笑んで事切れたと聞きました。

 ええ、そう言い遺されて尚、俺は死を選んだのです。
 本当に貴女を愛していたなら、俺は貴女の言に従って、いつか泣くのを止めて歩き出し、自分の生を全うしたでしょう。
 あの時の俺には、「愛」は理解できませんでした。自分の全てを相手に委ね、相手が死んだら自分も死ぬ。そういう歪んだ恋情のようなものを持って、俺は死んだのです。

 今なら俺も、貴女を愛せていると思います。
 貴女がこの愛を受け取ってくださる日が遠からず来ることを、ずっと祈っています。

5/7/2024, 1:00:58 PM