海の上にはどんな世界が広がっているんだろう
ずっと海の底で暮らしてきた私。
海底人として暮らして来た私は、海上に上がることはご法度だと知らされてきた。
でも、ずっと夢想してた。
もし、私が海上に行ったら。
そしたらどんな景色が広がっているんだろう。
どんな人が私を迎えてくれるんだろう。
そんな気持ちを夢想し続けるともう止まらなくなってきた。
地上の人と会いたい、会ってみたい。
私は、一年に一度、年号が変わる日を祝い、門の警備が緩んだ時を狙って地上の世界に向かってトレジャー号と呼ばれる潜水系の船を使って進んでいく。
ちなみに、海の凄く深い所に築いている私達の文明は、バリアを張っていて、パッと見ただけでは外から都市があることがわからないようになっている。
マジックミラーの原理で、こちらからは地上の様子は分かるので、もし何かが近寄ると、海流を起こして、他の場所に移動させたりする。
地上の人はパパとママいわく、恐い人達、だそうだ。
でも、私は、見てみたいという欲求に抗えなかった。
地上までの長い長い旅に出る。
地下深くに灯る人工太陽の光もなく、しばらく暗黒の世界だったのが、だんだん外が明るくなっていく。
そして、私は、夢にまで見た地上に出た。
眩しい。
人工太陽の比にならないほど眩しい。
私が目を手で隠しながら、トレジャー号にバリアを張って見えなくすると、海の中から泳いで、砂浜へと移動する。
寒い時期だからか、人があまりいないみたいで、私は太陽の眩しさに慣れるためにしばらくそこでジッと座って目を押さえていた。
「大丈夫?」
不意に男の人の声がする。
目を開けると、眼の前に、心配そうな男の人が私の顔を覗き込んでいた。
「目、痛いの?・・・っ、君、凄く肌が白くて綺麗だね・・・金髪だし・・・もしかして、外国の人?」
私は困っていた。
私達は思念で会話をする。地上の電波をキャッチして、見ることの出来るニュースなどの映像から流れてくる声はこの男の人の言語だから理解はできるものの、話したことはないので、発音がよくわからない。
「ち、じょ・・・みたくて・・・きた」
「あ、やっぱり、外国の人なんだね!美少女さんだなぁ。迷ったの?」
男の人は友好的な笑みを浮かべた。
私は、とっさに海底都市の教えを思い出して警戒する。
もし、この人が悪い人だったら・・・。
「ほら、見てごらん、あっち」
不意に男の人が海の方を指す。
「夕日が沈む所。僕、この景色が好きで、この時間にいつも散歩に来るんだよ」
指差す方を見ると、太陽の光が薄れ見たこともない、優しい、オレンジ色の光が注がれていた。
「き・・・れい」
「そうでしょ?」
男の人は、嬉しそうに、夕日を眺めている。
「ここに来ると、辛いこととか、忘れられるんだ。君も何か辛いことがあったら、夕日を見るといいよ・・・あ、来日している間ね。あっでも、そっか、海外でも夕日は見られるよな・・・?」
頭をかいている男の人を見て、私は首を横にふる。
人工太陽には、夕日はないから・・・。
また見たいと思った。
この人とこの夕日を。
瞬間的に湧き上がる郷愁ともいえる感情。
ここが故郷じゃないのに、懐かしさが込み上げてくる。
「また・・・くう・・」
きっとまた来ると言いたかったけど、、発音がおぼつかない。
男の人は私をみてニコッと笑った。
「また、会えるといいね!じゃあね!」
次第に遠くなる姿。
私はもう一度夕日を目に焼き付けると、他の海底人に地上に行ったことがバレないように、急いでトレジャー号に乗り込んだのだった。
また・・・会いたいな。
私のこと、忘れないでいて欲しい・・・。
そんな抱いたことのない感情をお土産に私は地底世界に帰還する道を進んでいった。
1/20/2024, 1:23:03 PM