【130,お題:眠れないほど】
「お前最近寝れてねえの?」
「ふぇっ?」
唐突に、そして直球に飛んできた質問に、あわや手元のコーヒーを落とすとこだった
「急に何だ?」コーヒーを啜って眠気を覚ましながら言い返す
「いやお前隈凄いぞ、それにやけにコーヒーばっか頼むし」
それ3杯目だぞ、そう言われるが...そうだろうか?いまいち記憶がない
「寝不足は身体に良くねえからあんますんなよ?」
「いや...別に、寝不足では...」
「...じゃあその歯切れの悪さは何だよ、それに今日の講義中ずっとダルそうだったよな?
学食でも、もとから少食なくせに今日は特に食わねえし、あ、あと...
やばい、変なスイッチを入れてしまった。
確かにちゃんと寝ていないのは当たっているが、別に体調が悪いわけではないし特に問題もないはずだ
彼は意外と人のことを良く見ているから、いろいろ目についてしまうんだろう
本当に自分は大丈夫なのだ、自分のことは自分が一番分かると言うし...
「あ、おい!人の話は最後まで聞けよ、どこ行くんだ?」
「図書館、自習しに行く」
「またか?お前気ぃ張りすぎじゃね?」
てかお前昨日も一日中勉強して...
と、彼のお喋りはとどまるところを知らない、お前は俺のオカンかよ
これ以上何を言っても会話らしい会話になる気がしないので、残りのコーヒーを胃に流し入れ
自習用のノートと筆記用具をまとめて席を立つ、が
「痛ッ...」
ズンと頭が重くなる感覚、押し寄せ引き返す波のような痛みに思わずしゃがみこんだ
何だこれは、いつもの痛み方と違う...
「お、おい大丈夫か...!?」
「大したこと無い...別にいつもと変わらな...うっ」
無理に起きようとテーブルに手を置いて立ち上がる、だがそれも叶わず
よろけながらなんとか数歩進むが、すぐに平衡感覚がバカになって足が縺れた
あ、ヤバい倒れ...
ドサッ
「うおっ!?あっぶねぇ...大丈夫か?」
ぐるりと回転した視界に脳が追い付いていないのか、まだ視界が揺れている
転びかけた俺を、彼が引っ張って助けてくれたんだと、数秒たってから理解した
「...ぁ...あぁ、すまん...そっちこそ平気か?」
引っ張った拍子に一緒に縺れて転んだため、俺の下敷きになっている
慌てて退くと、彼がのっそりと身体を起こした
「俺は平気、それよりお前随分軽くねえか?最後に飯食ったのいつだよ」
「...」
「その感じだと、もう数日は食ってねえんじゃねえか!お前死ぬぞそれは」
あっやば、...何か言い訳
「いや...課題が...」
「お前、課題はいつもここで終わらせてくだろが」
「......」
これ以上なにも浮かばない、やはりろくに寝ていないから思考力が低下してきているのか
なにも言えずにもごもごと押し黙っていると、はぁぁと深いため息を吐く音が聞こえた
「お前が何かに集中しやすい正確だってことは知ってんだよ、何年の付き合いだと思ってんだ
どーせろくに眠れないほど熱中してる何かがあんだろ、だが」
子供を叱る親のような眼差しがスッと和らぎ、優しい声色で告げる
「あんま無理しすぎんなよ、俺だって心配になる
お前だけの身体じゃねえんだ、他にも心配する奴がいると思うぜ」
俺だけ身体じゃない、か...そうか ...ところで
「ちなみにだが、午後の講義が何時からかは知っているか?」
「?13時か?」
「そうだ、残り時間あと2分だな」
ピシッ、と彼の表情が凍り付くのが見えた
「...おいお前気付いてて黙ってただろ」
「俺は体調が悪いから午後の講義は出られん、すまんがお前一人で叱られてくれ」
「口元にやついてんのバレてんぞ!...っだああもう!」
お前体調が戻ったら俺の課題手伝えよ!と叫び声を残し
物凄い勢いで廊下を駆けていく、あの調子じゃ講義室に着く前に別の理由で叱られるぞ
「はぁ...頭痛え...」
さっきまで彼の居たテーブルに突っ伏し、うとうとと船を漕ぐ
確かに俺は無理をしすぎていたかもしれない、1人反省しながら
あいつが戻って来たら、少しくらいは課題を手伝ってやろう
そう思いながら、数日ぶりに眠りに落ちるのであった。
12/5/2023, 1:11:59 PM