「やっぱり男はお金よねー。」
いつものお店、いつものメンバー、いつもの女子会、いつもの恋バナ。そして決まったように貴方はそう言う。
「またそれー?咲、また男と別れたな?」
「うっさい。いや聞いて、アイツほんとケチでさー。いくら顔が良くってもねぇ。」
「いやいや顔でしょ。愛せる顔してなきゃキツいわ。」
「いやお金あればほとんど困ることないでしょ。それに別にお金貸して欲しいわけじゃないし。」
「もしそうならただのヒモよあんた。」
この会話も何度聞いたことだろう。私は小さくため息をついた。これもいつも通りだ。
「ねー。花もそう思うでしょ?男は金だって。」
「…え、あぁうん。そうだね。」
「いや花あんた絶対聞いてなかったでしょ!」
「聞いてたって。まあ、お金はなにかと入り用だし?」
「でしょー!やっぱ花はマジ理解者だわー。」
嬉しそうに笑う彼女を横目で見て、頼んでいたジンジャーエールを1口飲んだ。ぴりぴりとした刺激を喉で感じながら、年齢にしてはかなり多く数字が記帳された通帳を思い出す。
ねぇ、咲。私結構稼いでるんだよ?
「っていうかほら、誕生日とか新作のバッグとかコスメとか欲しくない?やっすいキーホルダーとかじゃなくってさ。」
「うーわ。サイテー。」
新作のバッグなんていくらでも買ってあげる。貴方がもっと可愛くなるのは心配だけど、欲しいならコスメだってたくさんプレゼントする。
「デートのときとかさ、『ここは俺が出すよ。』とか言って貰えるのよ?」
「タダ飯目当てか!」
高級フレンチでもなんでもご馳走してあげる。美味しそうに食べる貴方が見れればそれでいいの。
「なにより、ほら、子どもが出来たときとか。」
ずきり。ああ、始まった。
「お金の心配はない方がいいでしょ?ほら、うち親がそういうの言いだし始めちゃってさ。」
「うぁー。うちも。いい人いないの?って帰る度言われるわ。」
「やっぱ?ね、花はどうなの?」
「わ、たしは…。」
子ども。お金があったって私じゃどうしようもならないもの。
「まだ特にないかな。」
「えぇー!いいなぁ!」
お母さんは、何となく察しているのかもしれない。何も言わないでくれているのは、とても幸せなことだった。
「…ま、子どものこと考えるなら、お金より愛かもね。」
「おっ咲。思い直したかー。あたしゃ信じてたよ。」
「結局いつもその結論だよねー。」
貴方への愛なら世界の誰よりもあるのに。お金だってあるのに。そんなことより大事なことがあるって貴方は無自覚に突きつけてくる。
「…それだけじゃないでしょ。」
「ん?花、何か言った?」
ああ、惨めだ。かないもしないのに。
「なんでもないよ。」
私はジンジャーエールを飲み干した。
やっぱりぴりぴりして、少し涙がでた。
『お金より大事なもの』
3/8/2024, 12:35:36 PM