真澄ねむ

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 ウェルス王国北西部に位置する有翼族の里フェアンヴェー。リヴァルシュタインの故郷である。
 フェアンヴェー一の勇士であり、次期族長である彼は、その能力を請われて、ウェルス王城にてフェアンヴェーの名代として勤めていた。
 王城での仕事はとてもつまらない。部族間の融和政策の一環とはいえ、こんな温い環境では鍛錬の意味を成さない。これならば、故郷で暮らし、故郷を護っている方が随分とマシというもの。
 とりあえず、彼は今、一週間の休みを貰い帰郷していた。
 戻ってきたリヴァルシュタインを里長が出迎える。
「おお、リヴァルシュタイン。息災であったか」
「見ての通りですよ、長」
 彼はそう返しながら肩を竦めた。
「王城ではどうじゃ? 不本意な扱いはされておらぬか?」
「不本意な扱いはされてませんが……王城の兵はレベルが低すぎて話になりませんね。鍛錬相手にもならないので困っています」
 リヴァルシュタインはそう言うと溜息をついた。
「強い者もいるにはいますが、ほんの一握りです。こんなことなら里で修行している方がよっぽど有意義ですよ」
「まあ、そう言うな。お前には不向きな役割を与えていることは重々承知している。融和のためじゃ。どうか堪えてくれ」
 リヴァルシュタインは再度溜息をつくと、里長に向き直った。
「ええ、承知しています。……長の考える“融和”が私にできるかどうかは保証しかねますが」 そう言うと、彼は里長の前を辞した。帰る足でフェアンヴェーの中心に建つ物見塔を登っていく。
 塔のてっぺんに来ると、ウェルス北西部が端から端までよく見える。彼は腕を翼に変化させると、欄干を蹴って宙に飛び上がった。
 北部の雪山の方へ向かうつもりではあるが、特に目的地はなかった。
 追い風が吹いている。この調子へどんどんと前へ、遙か遠くへと進んでいきたい。
 どんどんとフェアンヴェーが小さくなっていく。

1/7/2025, 2:45:46 PM