作品49 星のかけら
いつからこうしているんだろう。どれくらいの時間、あなたを待っているのだろう。あお向きに寝転がりながら、私はあなたを待っていた。
早く夢を見て。
一度、まぶたを閉じる。次開いたらあなたが隣にいることを願って。そういうことを、何度も何度もしている。どうか次こそは。
恐る恐る目を開けると、あなたは腕組みをしながら私の枕元に座っていた。嗚呼やっと。やっと会えた。愛しいあなたに。
これでやっと、別れを告げられる。
この気持ちを悟られないよう静かな声で、もう死にますと言った。あなたは驚いたように私の顔を眺めた。
とうてい死にそうには見えない、とでも思っているのでしょうね。けれど、死んでしまうのですよ。
そこで、もう死にますと、今度ははっきり言った。そしたらあなたはどこか納得したような表情になり、そして真上から覗き込むように、もう死ぬのかねときいた。
あなたの瞳をまっすぐと見つめ返し、死にますともと返す。あなたの顔がよく見えた。
あなたは枕のそばに口を近づけ、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまたたき返してきた。でも、死ぬんですもの、しかたがないわ。静かな声でそう返した。少し眠くなってきてしまった。
もっとあなたと話したい。まだ、話していたい。あなたの顔をずっと近くで見ていたい。けれどそれはもう、叶わない。
あなたとずっと一緒にいたいのに。
しばらくして、あなたにこう言った。
「死んだら埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちてくる星の破片を墓標に置いてください。」
そうして墓のそばで待っていて。いつかきっと会いに行くから。そう伝えた。
あなたは、いつ会いに来るかねと尋ねた。あなたは果たして、日が何度も何度も沈むのと落ちるのを繰り返すような、そんな長い時間、ずっと待っていてくれるのだろうか。
そう問うと、黙って頷いてくれた。嬉しくて、静かな声の調子を一段張り上げる。
「百年、私の墓のそばに座って待っていてください。」
きっと会いに来ますから。どうか、お願いと。祈りを込めた。
あなたはただ待っていると答えた。
あなたの顔をじっと見る。ちゃんと見てるはずなのに、なぜだかぼやけて見える。これは嬉しいからなのか別れが悲しいからなのか。涙が止まらなかった。
唯一ちゃんとわかるのは、死んでもずっと一緒にいると、そう誓ってくれるのが嬉しいということ。
何も悔いは無い。目を閉じる。涙が頬へ垂れた。
ぼんやりと、湿った土の匂いがした。そして柔らかい土を、そっとかけられる。かけられるたび、どこかがキラキラ光っているように感じた。
私の上に土。そして土の上に何か暖かいものが置かれたように感じる。きっと、星の破片だ。
きっとあの人がしているのね。あの人が、私との約束を守ろうとしている。
それだけで、どんな罪も許せそうだ。
ねえ?
あなたへ。
私の無理な申し出に、否定もせず受け入れてくれて、とても嬉しかったです。
約束通りの方法で私を埋めてくれて。とても優しく扱ってくれて。何も見えなくても、あなただとわかりましたよ。
もし、あなたがもう一つの約束通り百年待っていてくれるなら、それは私達の愛が証明されたということになります。
いつになるか、その時が本当にくるのか。それはまだ分かりませんが、来ると信じています。そしてその時には、百合となってあなたに会いにいきます。
私だと、気づいてくれますか?
接吻してくれますか?
変わらず愛してくれますか?
ずっとあいしていて、いいですか。
⸺⸺⸺
夏目漱石『夢十夜』 第一夜 女目線?
いいのかなこれで……。
星のかけらつったらこれか、スピッツの惑星のかけらしかない。
1/9/2025, 1:46:38 PM