特別白くも細くもない、ごく普通の少女らしい指が花弁をちぎった。
それを見ている。
「好き、好き、好き、好き、好き……」
しゃがみこんだその人の肩を飛ぶ虫がいる。お眼鏡に叶わなかった、——あるいは、まぬかれた——花々を足にして、私はそれを見ている。
学校指定のハイソックスを折って履くのが流行りだったから、そうしていた。剥き出しのふくらはぎが空気を浴びる感覚が、いつになく不快だ。この分では、邪魔だと放ったスクールバッグで虫を潰してしまったかもしれない。
「好きしかないんだね」
「好きも嫌いも花なんかに決められるわけないでしょ」
そんなこと信じてたんだ、意外とかわいいね。
にこりともせずに言う。花占いなんてリリカルな手遊びをする人が。
「——分からないかもしれないけれど」
「うん?」
「例えば梱包に使われる緩衝材をプチプチ潰すと気持ちいいでしょう」
「ううん……」
「ふふ、やっぱり分からないよね。あなたには前提条件が通じない」
その人は禿げあがってしまった花茎を恭しく地面に置いて、私に手を伸ばす。普通を逸脱しない程度に冷えた指先を引っ掛けて立ち上がったその顔が、普通を逸脱する程度には近くにある。
「そこが好きよ」
「あなたみたいに、あなたの仲間になりたくて、ちょっぴり変な行動を取っちゃうくらい好き」
「どう話せばあなたが分かるか、分からないところが好き」
「……花びらの枚数は!」
淡々と囁かれる告白に耐えられなくて、大きな声が出た。目をぱちくりさせる人の指をぎこちなくほどく。
「花びらの枚数は決まってる……から。花占いに意味なんて」
ない。
息をつくように吐き出すと、その人はにっこり微笑んだ。
「そうよ、花占いなんて意味無いし、無駄に植物の命を弄んでるだけ。——ねえ、そんなつまらない照れ隠し、二度としないでね。普通のあなたは嫌いなの」
好きと連呼した時よりもよっぽど甘い声で嫌いと囁かれて、思考だけがから回る。棒立ちになった私の脇をさっさとすり抜けて、その人はプリーツスカートの土埃をはたいている。
ああ、けれど。やはり花占いなど眉唾だ。好きしかない花占いに縛られるものなど、一人もいない。
/好き、嫌い、
6/20/2025, 3:43:41 PM