あじゅ

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それは何の変哲もない、至って普通の日の事だった。いつも通りの朝が来て、なんてことない礼拝をして、窓から森へ抜け出した。そんな繰り返しの中の、ほんのちょっとのイレギュラー。木漏れ日を浴びて輝く、一人の少女。出会いはきっと、偶然だった。
ミキは、お転婆やじゃじゃ馬という言葉がとても似合う少女だった。走って、転んで、怪我をして、泥だらけで笑う姿が、不思議と綺麗だったんだ。それは憧れか、羨望か、兎に角焦がれるその感情は、恋と呼ぶのに相応しい色を放つ。
君が遠くに行ってしまうと知ったのは、春も終わりの頃だった。過ぎる時間の無常さに、悔しさで息が詰まったものだ。生まれて初めて嘘をついて、君へのプレゼントを用意した。春を思わせる淡い色のラッピングは、何処となくあの子に似ている。
結局、プレゼントを渡すことは出来なかった。簡単な話、怖じ気づいてしまったのだ。それからというもの、僕はあの森へは行っていない。今までと何ら変わらない日々の中で、君への後悔と悲しみだけが確かだった。
僕はずっと、忘れないだろう。あの時、あの場所に君が居たという事を。そして再会の約束をした、森の中の箱庭のような花畑の色を、この胸に抱え続けるのだろう。

いつか、遠い約束が叶うその日まで。

4/8/2025, 11:34:49 PM