『1つだけ』
君が置いてったものを、僕は今でも大切に残している。ただ、忘れられないという、どうしようない未練なのだろうか。
君が僕の前から消えて、8年が経った。
この8年間、僕は欠かさず君を思い出したし、置いていったものを忘れたことはなかった。
君は遠くに行くと言った。
行先は教えてくれなかった。
僕がきっと着いてきてしまうからだろう。
君は僕よりも何枚も上手で、僕の想像の何歩も先を読んで動く人だった。
あぁ、ずるい人。
いや、僕が単純なだけなのかもしれない。
君は僕を呪ったんだ。
きっと無自覚なのだろうけれど、君は確かに僕を呪った。
愛してしまったんだから、仕方がない。
僕らの出会いは風の冷たい、雨の降った夜だった。
死んだように生きていた僕は、傘を差し出してくれた君にほいほいついて行った。
まるで捨てられた子犬のようだったと君は笑った。
君の行くところなら、どこにでもついて行った。
犬でもなんでも良かった。
あの日救われてから、君だけが僕の世界だった。
それなのに、こんなに大切なものを残して君はどこかへ行ってしまった。
君のおかげで確かに僕は1人でも生きていけるようになった。
でもそれは、君がいなくなっても生きていけるのと同義ではなかった。
僕に愛を教えたくせに
ただ1つだけ、唯一君が残していったもの。
僕の心に生まれたこの感情だけ、未だに行き場がなくて、君がいなくなった世界では、僕は呼吸さえも上手くできない。
2026.04.03
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4/3/2026, 2:33:08 PM