未知亜

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ㅤ降ったり止んだりの白い空を、ビニル傘越しに僕は見上げる。隣の傘の中から「寒っ」と声がした。三十度に迫る勢いだった都心の気温は週明けから一気にさがり、昼だというのに十六度まで落ち込んでいた。

ㅤ日が長くなると、ソワソワするんだ。
ㅤ向かい合わせに座った後は、感じたままを伝えようと決めてきた。けれど実際口に出来た言葉はどれも軽くて安っぽかった。
ㅤ今が嫌な訳ではないのに。ここではない場所へ向かわなくてはという漠然とした僕の焦燥が、傍の誰かをいつも傷つける。

「まるで渡り鳥だね」
ㅤ遠くで低くつばめが飛んだ。そちらに目を向けたまま、夏海は手のひらを上にして空に差し出す。
「渡ってくるとき、また教えてよ」
ㅤ畳んだ傘をくるくる回してボタンを留めると、こちらを振り向いて消えそうに笑った。


『渡り鳥』

5/30/2025, 7:15:18 AM