「今日、ひなまつりだって」
「あ、だからやたら桃の花を見るんですね」
バイト先の先輩に言われ、そういえば、と店の中を思い浮かべる。菱餅やちらし寿司もあったな、と今更今日が3月3日だと認識する。
「もう関係ない歳だから、忘れてました」
子どもの頃は、よく家族がお雛様を飾ったりケーキを買ってきたりして盛り上がっていたけれど、いつからか自然と祝わなくなっていた。まあ、あれって女児対象らしいし、と自分の中で納得させる。
しかし、先輩はそうではないらしい。
「えー、もったいない! 女の子が祝われる日なんだから盛大にパーティーしなきゃ!」
「はい?」
「ひなまつり! あ、バイト終わったらひなまつりデートしよ!」
「いーですけど……なんかこのやりとり、前もしませんでした?」
えー? ととぼける先輩の、赤いグロスが艶めかしい。
今日はピンクじゃないんだな、と思う。気分屋の先輩らしいといえば、らしいけど。
ふ、と先輩の手元を見れば、気合いの入ったデコデコネイル。あれ、と首を傾げる。やっぱりこの流れ、前もやった気がするな?
「先輩」
「なにー?」
「もしかして、イベントをデートって言って誘う口実にしてます?」
「ふぇっ!?」
間抜けな声が聞こえたので顔を上げると、先輩の顔がグロスと同じくらい真っ赤になっていた。
3/3/2024, 11:49:53 AM