【繊細な花】
ガラスで形作られた美しい薔薇の花。薄氷のような花びらも、葉に浮き出た細い葉脈も、指先で触れただけで壊れてしまいそうなほどだった。君が最期に生み出したその花に、幾重にも守護の魔法をかける。砕けることのないように、奪われることのないように。
君が自分の作品を、自らの産んだ子供のように愛していたことは知っている。世界中の人々に自分の作品が鑑賞され、賞賛されることを、君が至上の喜びとしていたことも。
それでも僕は、この花が誰かの目に触れることを許せない。君が最期に生み出した、美しくも繊細な花。君と僕が出会った庭園に咲き誇っていた薔薇の花を模って造られた、君の遺作。
拙い独占欲を、自分自身で制御できない。君との想い出を自分の手元だけに留めておきたいと、愚かな僕は願ってしまう。
(ワガママで、ごめん)
泣きたい気持ちで囁いて、仕上げに認識阻害の魔法をかけた。これでもうこの透明な花は、永遠に僕だけのもの。僕にしか見えない繊細な花のその割れてしまいそうに薄い花弁に、優しいキスをそっと落とした。
6/25/2023, 11:43:37 AM