ザラザラと音がするように降る雨。
青年は「もういいよ!」と言った。
だが雨は止むことはなかった。
それどころか勢いを増し、雨脚は強くなった。
雨音は拍手だった。
青年の役者人生最後の公演。
名だたる役者が演じてきた、かの有名な作品の主人公を青年は見事にやりきった。数にして26公演。
拍手は鳴り止むことはなく、スタンディングオベーションまで起こった。
青年は照れくさそうに俯き、一度目元を拭うとぱっと顔を上げて両手を広げた。
そして左手を胸に当て右手を肩まで上げ、深々とお辞儀をした。
拍手は公演終了のアナウンスが鳴るまで続いた。
5/25『降り止まない雨』
あの頃の私へ。
続けていたこと、今役に立っているよ。
クオリティは低くても、続けることが大事だよ。
その時の私へ
以後、いかがですか?
続けられていますか?
クオリティはいかがですか?
継続と質、両方上げられてるといいな。
5/24『あの頃の私へ』
ダガンッ、と重い音が響いた。
分厚い靴底が、男の顔のすぐ横の壁を踏み抜いた音だ。
衝撃で尻もちをついた男は、その長身を縮こまらせて床にへたり込んだ。
「え、な、なに? なに……っ?」
いわゆる『足ドン』をされた男は、しどろもどろになりながら見上げる。
目の前に立つ彼の表情は長い前髪に隠れて見えないが、全身から尋常ならざる怒気が滲み出ていた。
「言わねぇと、わかんねぇか」
地を這うような声音に、男が「ひぃっ」と短い悲鳴をあげる。体の大きさに反してなんと情けないことか。
蛇に睨まれた小動物のように震えながら、男は必死に首を振った。
彼はその様子に呆れたように、低く息を吐き出す。
「俺のプリン、食べたろ」
トーンは変わらない。それは問いかけではなく、確実な処刑宣告だった。
「え? ――あ、あぁ! あれキミのだったの!」
男は合点がいったとばかりに手を叩いた。
「名前が書いてなかったから、食べていいものかと。ごちそうさま、美味しかったよ」
悪びれもせずにっこりと微笑む。
だが次の瞬間、壁に押し当てられた彼の靴底が、さらにギリ……と音を立てて男の顔の方へ滑ってきた。逃げ場のないゼロ距離の威嚇。
「美味しかったか。そりゃあよかったな。あれ、俺が何ヶ月も前から予約して買った、最高級のプリンだったんだけど?」
「え? あ、そうなの……? ご、ごめん……」
口先だけの謝罪では、彼の怒りの火に油を注ぐだけだった。彼は逃げ場のない男を見下ろしたまま、つらつらと呪詛のように語りだす。
「先着予約枠なんて一瞬で埋まるしさ、季節限定で、素材にもこだわり抜かれたすごーく貴重なやつだったんだよね」
「ひぃぃ、そんな国宝級のものだったの!? なら名前書いとくか、先に言ってよ!」
「あぁ!?」
言い訳がましさに、普段は大人しい彼の牙が完全に剥き出しになる。
心からの、平伏するような謝罪を毟り取るまで、男の顔の横にある凶器(足)が退けられることはなさそうだ。
5/23『逃れられない!』
5/26/2026, 8:37:35 AM