未知亜

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ㅤ見て、と袖を引かれ、僕は立ち止まった。佳織の手が足元を指さしている。

ㅤ群生している花畑から離れた歩道の隅に、一輪だけ咲いてるコスモスだった。濃いピンクの花びらが風に揺れる。

「たぶん今、洋ちゃんこんな感じかなって」
ㅤぽつんと咲く花の前にしゃがみ、佳織が付け足した。
「いーんだよ、皆と同じ場所じゃなくたって。一輪でもちゃんと綺麗だし」

「待ってるわ、隣に佳織が来んの」
ㅤ同じようにしゃがむと、佳織の手を握り僕は笑いかけた。
「ずっと一輪じゃ、やっぱ寂しいからさ」
ㅤ思ったよりかは上手く笑えた気がした。

『一輪のコスモス』

10/11/2025, 8:43:16 AM