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「胸が苦しくて,夜も眠れないんです。…原因はわかっているんです」僕は,女性医師の目を見て続けた。「恋の病なんです。先生を好きになってしまったんです」僕が冗談で言っているのではないことは,胸にあてた聴診器の鼓動から伝わっているはずだ。しかし,医師の表情からは,反応を読み取ることはできない。数秒の沈黙ののち,聴診器を外した女性医師が,突然,僕の手をつかんだ。僕は,緊張のあまり,身をこわばらせた。女性医師は,白く長い指を,僕の手首にあてると,さらに十数秒の沈黙ののち,不思議そうに首をかしげて言った。「何でだろう,脈がありませんね」

4/15/2023, 11:22:51 AM