記憶の地図を辿るように、目を閉じて君との日々を思い返す。君と付き合い始めたあの日から始まって、現在地まででこぼこ道が続いている。そして、僕らの目の前の道は、行き止まり。
進むためには、通行止めになっていない右の道に行くしかない。だけどそれは、別れへと続く道。
【記憶の地図に載らない輝き】
「どうしてこうなっちゃったんだろうね、私たち」
君の笑顔は、他に適切な表情がわからないから仕方なくそうしている、というような収まりの悪さをどことなく感じさせた。
どうしてなのだろう。この道を閉ざしたのは僕たちではない。好きで行き止まりにたどり着いたわけではない。
だけど、行き止まりに続く道を選んできたのは、他でもない僕たちだ。
「選択肢一つ違っていたら、別の未来があったかな」
僕と同じようなことを考えている君は、きっとこれから、僕と同じように記憶の地図を見返して、僕と同じように「あのとき、ここで右に曲がっていればよかったんだ。馬鹿だなあ」と後出しで思うのだろう。
どうして、こんな別れへと続くだけの選択を繰り返してしまったのだろう。記憶の地図を見返してみても、どうしてこの道を選ぼうと思ったのかがよくわからない。地図で見る限り、僕らが選ばなかった道の方が広くて、歩きやすそうに見える。
……あ、思い出した。確か、僕たちはあのとき。
「綺麗な花が咲いてる方を選び続けて、取り返しのつかないことになっちゃったね」
そうなのだ。あるときは一面の向日葵畑。あるときは花壇のチューリップ。あるときは一輪のたんぽぽ。地図に載らない程度の「綺麗」を選び続けてここにいるんだ、僕たちは。
「……まだつくよ、取り返し」
思わず、僕は言っていた。
東京タワーでも、富士山でも、太陽の塔でもない。地図に載らない「綺麗」を共有できる相手って、すごく貴重だと思うから。行き止まりに当たったくらいで手を離してしまうなんて、やっぱり、嫌だ。
「道がなければ、切り拓けばいい。綺麗な花のある方へ、道なき道を進んで行こう」
「……馬鹿じゃないの。簡単に言っちゃってさあ」
別れの道は、都会への道だ。アスファルトで整備された平坦な道には、きっと花なんて一輪もない。
「地図に花のある場所は載ってないから、僕は君とそれを見つけたい。『こんなところに花畑あるんだね』って、地図に丸をつけようよ」
「きっと辛く厳しい旅になるよ」
「地図を見返しても花がある場所もわからない方が、ずっと辛いよ」
ひとまずは、行き止まりの向こうにちらりと見えるあの花を。ちゃんと近づいて、種類を確かめて、地図上に赤いペンで書き込んでみない?
6/17/2025, 8:37:39 AM