無音

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【285,お題:一年後】

「またね。」

そう振られている手を見ているしか出来なかった、
押し黙って、ずれていく地面を見つめていた

またねって、僕も言えば良かったかな、手を振り返せたら良かったかな
また、ってことは次があるってことだから
そしたら、もう一度チャンスが来たかもしれない

だんだん君が遠くなる
あーあ、肝心なところで僕は臆病なんだ

喧嘩別れなんてするもんじゃないな
無理に意地をはって...、君が振ってくれた手を見ない振りして
君の方が僕よりもずっと大人じゃないか

また会えるのは一年後、戻ってきた君に僕は何て言おう
おかえり?久しぶりだね?今から考えても仕方ないのに...

小さく息を吸って、吐いた
どうしようもないタラレバが少し薄くなった気がする


未来はいずれ来るもの、まずは目の前のことから片付けるんだ。


こんなときでも、思い出すのは君が言った言葉

まずは目の前のことから...目の前のこと...


「っまたなーーーーっ!!!」


電車の音に負けないぐらい大きく声を張った!
何人もの人が驚いて振り返る、普段なら悪目立ちはしたくないが今は違う

今まで出したことないくらいの大声に、自分でも頭がクラクラする

遠ざかる君に見えるように、聞こえるように
ホームの端っこまで走っていって、大きく大きく手を振った

「早く帰ってこいよーーーっ!!」

不思議だ、いつもの夕日がきらきらしている
雨上がりの雨粒が光を反射するみたいに、世界が輝いて見える

蛹から孵ったばかりの蝶が見る景色は、きっとこんな色をしているだろう


一年後、君が帰ってきたら絶対に伝えよう

僕も大人になったんだと。

5/8/2024, 12:47:07 PM