秋の風が頬をなぞった。誰も居ない道を歩き続ける。ただどこに行くでもなく、歩く。不思議な事に、たくさん動かした脚はまだ歩きたい、と言っているかのように疲れていない。何の目的も持たない。どこかに行きたいだけ。身体がそれを認めているような気がした。
どこか。ずっと遠いどこかに。
歩いて逃げた。どうして?
僕は誰に、何に追いかけられているのだろう。
そして辿り着いた場所。懐かしいその公園。ブランコに乗ってみると、幼い、あの頃のままの僕が居る気がした。
今はもう居ない。友達も、誰も。追いかけっこをする子供も、滑り台で遊ぶ子供も、シーソーに一人で乗る子供も。それで良い。前を向けたのなら、それで良い。
僕は会社の反対側に歩いていた事に気が付いた。逃げていた。周りが出世して、結婚していく中で、自分は何も出来ていない。何かしようとするほど迷惑をかける。
だから歩き続けたんだ。どこかに、行きたかった。
秋の橙と紫の夕暮れが帰りを促す。誰も居ない公園を出る。空が綺麗だった。いつも残業を終えて帰る頃には真っ暗だから、空なんて気にしなかったのに。
そして僕は走った。雨が降っている。帰らないと。焦りながら来た道を戻った。家に帰ったら誰かが僕を叱ってくれれば良いのに、生憎僕は一人暮らしだ。雨に濡れた顔をタオルで拭かないといけないな。そしたら謝罪をして…明日は逃げずに行かないと。
道行く人は誰も傘をさしていない。僕だけの雨模様だった。
8/20/2024, 9:33:48 AM