忘れ物をした。
放課後、HRが終わって、校舎口へ向かっていく人々に逆流して講義室に向かう。
授業以外だと使うことなんて無いような場所だから、誰もいないだろうとノックもせずドアを開ければ。
教室に1人、女子。
スマホを手に自撮り。明らかな校則違反。
数秒見つめあって。気まづー、とか。明日に出直そうかな、とか。一瞬で様々な思考が頭を巡ってるうちに、その子がぐだーっと崩れ落ちた。
「ビックリした!何だ、先生かと思ったよ」
ケラケラと安心したようにこちらを見て笑う。
あまりの温度差についていけずそのまま眺めていれば、「忘れ物でしょ?はい」と慣れた手つきで私に渡そうとしたところでピタッと止まる。
「スマホ、見たよね?」
「…ああ、うん。見ちゃった、ね」
「やば!だよね」
慌てふためく様子が面白くて数秒口を閉ざしていた。元より先生に告げ口するつもりなんてなかったけれども、ほんの少し、溜める感じで。
「あ、そうだ」
不安げに揺れる瞳が、ぱっと開いて。気づけば腕を引っ張られ画角内。
パシャ、と軽い音がなって数刻。驚いた私の顔とニコリと決めた女子のツーショットを、こちらに見せた。
「これで共犯!二人だけの秘密だよ?」
忘れ物を取りに来ただけだったのに。その言葉が、何だか私たちを特別にした。
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「二人だけの。」
7/15/2025, 2:35:31 PM