お否さま

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【逆さま】

「ねーぇ、イザナミ様ー?」

朝の廊下。冷えた空気の中、未だ幼い少女の声が響く。とてとてと1つだけ響く音は本人の気質を表しているかのように能天気で自由気まま。
しかし、それでも自分の役割というものを果たすのが彼女の芯であり

「隠れてないで出て来てくださーい?」

それを果たすために必要な人物を探している途中だった。肝心の当人は実はその辺のダンボールの影に身を潜めてやり過ごそうとしている。彼女はあえてそれを見て見ぬふりをしていた。躾というものは自分から出てきてくれるのが一番効果がある、彼女の持論はそうだったのでなるべく自分から出てきてもらうようにしている。あまり結果は芳しくないが。
今もそう。彼女の温情に頭隠して尻隠さず。でかめのひとえが隠れずの宮のパーリナイ。十二単ってかくれんぼに向かないのよね。

「イ、ザ、ナ、ミ、さ、ま?」

バレバレのかくれんぼにマジギレする見た目は13歳、中身は高校生の女児が1人。ちなみに怒られてる方も10歳程度の幼女である。文だけで見るなら、それは女児喧嘩だが場の雰囲気は零点のテストを隠した時のおかん並みの覇気だった。

「なんじゃなんじゃ、妾はこの神社の主なんじゃぞ!」

しかし、幼女はただの幼女では無い。そう、祭神として奉られたる偉大なる神……の分霊なのである。例え分霊であろうと神であり、主たるのでたかが人間に遅れは取らない。だが。

「巫女たる私が主の不出来を治さないと、主様が恥をかくでしょう!それとも夕飯抜きになりたいですか?」

一筋縄では行かないのはこちらもおなじ。しかもこいつは胃袋を掴んでいる勝敗がどちらへ傾くかなど一目瞭然。

「雛人形全部逆さまにして置いたのイザナミ様ですよね!?」
「プリンを食べたのは妾……ん?」

胃袋だけに食い違いがあった。だが致命的でもある。この神社には2人しか住人はいないのだから。

「妾はやってないぞ」
「隠したって後で泣きをみますよ」
「ほんとにやってないんだって!!!」

焦ったのか半ベソをかく神様。あまりに威厳がないがその様子から本気であると察した彼女。
はてと首を捻る。

「であれば誰が……それはそれとしてプリン食べたんですね?」
「あっ」

天誅は正しく下った。

この話において一つだけ訂正しよう。
逆になった雛人形はそれ自体が目的では無い。
逆なのだ。
あくまでただの副作用。であるならば、果たしてそれが起こす本作用とはどれだけ不気味なものなのだろうか。
そして。

「妾の城に手を出す不届き者がおるとはな」

ぐちっ。
幼い手に黒い染みが残り、幾分もしないうちに消える。
そう、いくら分霊であろうと、ここは黄泉の国の主が居城。勝手な真似など許されない。
巫女は彼女を慕っている。であれば主が守るのが役目。それも気付かれずに。だから。

「プリンぐらいは許してくれよォ」
「だーめーでーすー!」

彼女は弱りきった顔で、それでも嬉しそうに笑うのだった。

12/6/2024, 1:32:13 PM