ハッピーエンド
神様、仏様、天使、悪魔。なんでもいい。
もし、過去をやり直せるのなら。
もう一度だけ、チャンスをくれるのなら。
その時は、必ず。
「ドライブでもしましょうか」
机の横から、穏やかな声が聞こえる。
妻だった。
来た、戻ってきたんだ。
彼女は優しく肩を叩き、うたた寝している僕を起す。
体制を整えようと体を起きあがらせると、布が擦り合わさる音がした。
どうやら寝ている間に毛布をかけてくれたようだ。
「ありがとう」
僕は、彼女を見つめた。
暫くそうしていると、彼女は首を少し傾ける。
煌びやかではないけれど、ぎゅっと守りたくなるような笑顔。
彼女の顔を見れば、たくさんの出来事を思い出す。
僕が迷子で困っていた時、僕は泣いて、君は半べそをかきながら交番へ連れて行ってくれたよね。
君がボウリングでガターをした時、僕は君を慰めようと前へ出るけど、その時思い切り滑って後ろから転んだの、まだ覚えてるかな。
プロポーズをした時、君は泣いて、僕は笑ってた。
結婚を親から批判されていた時も、君は嫌な顔一つもせず、両親と向き合い説得した。
僕にはもったいないほど、幼少期からずっと一緒の君。
幸せな生活を送っていた、けれど
彼女は交通事故で死んだ。
それも、僕の目の前で。
運転席に居た僕だけが、生き残ってしまった。
「────なら」
「運命を変えれないと言うのなら」
「ねぇ……!あなた……!」
僕の手を握る、彼女の手から汗が伝わってくる。
窓越しに見える景色は、目では追えないほど変わっていた。
「小さい頃にした約束、覚えてるかな」
そう、僕が聞く。
『何を言っているの』と動揺する目を見て、一呼吸置き、口を開いた。
「ずっと一緒だと、約束したよね」
同じ過ちは繰り返さない。
怯える彼女の側に寄って、僕は構わずアクセルを踏んだ。
3/30/2024, 9:31:05 AM