髪弄り

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「今年も御迎えにあがりました」
天の使者は、いつもと変わらぬ調子で答えた。

「あら、もうそんな時期なの」「もうちょっとこちらにいてもいいと思うけれど」
「それはいけませぬ、貴方様が地上に現れることが春を告げる合図なのですから」

その通り、暗く陰惨な冥府の地下から出ることで、私の母は豊穣をもたらす。

母は私と一緒でないと酷く悲しんで、冬を告げて仕事をサボってしまうのだ。

「いや、今回はもうちょっといるわ」
頑なな私を使者は怪訝そうに見つめる。
「なぜですか?」
少し間の後、使者は表情を語りだす。
「去年もそうでした、失礼ながら、貴方様は外に出ることを望んでいないように見えます。母との再会は、あなたにとって嬉しいものではないのですか?」
「いや、嬉しいー、嬉しくないというわけではないの、ただ…」
「ただ…?」
「最近、ヒステリーがひどいの、突然喜んだと思ったら、悲しんだりと、母はそんな調子なのよ」
「今日だって、まだ会ってすらいないのに夏真っ盛りの暑さじゃないの」

冥府に漏れるほどの光には、照りつけららた春風が乗っていた。

『春爛漫』

4/10/2023, 12:29:00 PM