【行かないでと、願ったのに】
祖父の葬儀は滞りなく過ぎ去った。
寒空の下吹き付ける風は、私の悲しみまでも凍てつかせた。
祖父にとって私とは何だったのだろう。
イベント事で年に数回会う孫。
私の心の内までも祖父に伝えることはできていたのだろうか。
上部だけの会話だった気がする。
どうでもいいような話ばかりしていた。
話下手だった私の話題はすぐに尽きる。
いくつになっても私は伝えるのが下手くそだ。
祖父は亡くなる一年程前から認知症となり、私のことは記憶から失われていった。
その後がんが見つかり、寝たきりになった姿には、もうあの時の面影は存在し得なかった。
行かないでと願った。
その反面、行かなくても祖父の中に私は存在していないと感じると、その思いは揺らいでいた。
祖父にしてみれば無理に生きるのは苦しみになっていくのではないか。
大切な存在が記憶から消えていくなかで、思うようにいかない心と体は、その行く先を見つけられず、闇のなかを漂っていたのではないか。
今にして思えば、もっとしておけばよかったことは山ほどある。
でも今になってもできることは少なかったのかもしれない。
しんしんと降る雪は祖父の旅立ちの気配を残している。
「名残雪だね。」と母は泣いていた。
11/3/2025, 12:04:11 PM