無音

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【121,お題:微熱】

ピピッ...ピピッ...

「んーと?37.4°かぁ...微熱だね、ゆっくり寝てればすぐ治るよ」

「そうか...すまん、そっちもバイトあったろ?」

「えーバイトと親友なら、親友を取るに決まってんじゃん!」

僕ってそんな薄情に見えるのぉ~?と、おいおい泣き真似をしている背の高い彼
自分がベットで横になっている体勢だからか、余計に大きく見える

「にしても珍しいね?彗さん、あんま風邪引くタイプじゃなさそうなのに...なんで?」

「...あぁ、髪を乾かすのを忘れて寝落ちした」

「......?...え、?えっそれだけ?」

「...?それだけだが...?」

「は...はぁ...?...天然というか彗さんらしいというか...」

彗夏ってそゆとこあるよねー、と呆れたような眼差しで見下ろしてくる
俺は何か変なことを言っただろうか?そう思っていると顔に出てたようで、そこも君のいいとこダヨ★
...と、謎のフォローが入った、マジでなんなんだ

「あ、ポカリここ置いとくね。あと、ゼリーとかヨーグルト買ってきたから食べれそうだったら食べて
 何かあったら電話してくれれば来るし、冷えピタは替えのやつ冷蔵庫に入れとくね~」

「慣れてるな、さすがスパダリ琉空」

「ふふん、これでも下に妹2人、弟4人のお兄ちゃんですから!」

じゃあ僕そろそろ行こうかな~、帰り支度を始める後ろ姿を眺める
もう行っちゃうのか...ふと脳裏に浮かんだ、寂しいの3文字

...そういえば、俺の両親は共働きで家ではずっと1人だったな
2人ともずっと忙しそうで、俺が風邪引いたときも家政婦さんが来ただけで...

そう思うと急に猛烈な孤独感が襲ってきた、弱っている時は誰かに傍にいて欲しくなると聞くが、まさかここまで不安になるとは思わなかった

寂しい 置いていかないで 俺を1人にしないで 怖い 辛い 1人ぼっちは嫌だ

「!...?ん、どしたの~?」

心底驚いたような顔でこっちを見る彼の表情が目に入る。その瞬間、「やってしまった」と物凄い後悔が沸き上がってきた
上体を起こして、琉空のパーカーの裾を引っ張った格好のまま停止する俺、ほとんど意識せず身体が動いていた

「...ッ!......すまん...気にしないでくれ、本当に...」

なにやってるんだ、なにやってるんだ、裾を引っ張って引き止めるなんて子供じゃあるまいし
第一俺のキャラじゃないだろう、迷惑、そう迷惑だ、人様に迷惑をかけるなってお父様もお母様もずっと言って...

「...っふ、くっあははっ」

抜け出せない思考の沼に落ちる寸前、堪えきれないと言ったふうな笑い声にハッと振り向くと、愉快そうに笑う彼の姿があった

「ごめんw...ふふっw...ちょっと、実家の兄妹達がよぎって...w...はぁーっw......後で皆にも話そーっとw」

「...はぁ......」

「ごめんってwよし、そんな寂しがり屋の彗夏くんにはこれを授けよう!」

ひとしきり笑ったあとに、ぽいと手渡されたのは小さな赤い猫のあみぐるみだった

「それあげるね、僕が作ったんだよ~?ほら、これとおそろ!」

そう言って、ほらこれ!と指差された鞄には、小さな紫色の猫のあみぐるみがぶら下がっていた

「じゃ、また後で様子見に来るよ!よーく身体温めて寝るんだよ~」

「迷惑掛けたな、...ありがとう」

んふふ~、とやけにニコニコしながら出ていった後には、彼の残したわずかな温かさがあった

悪夢ばかりで全く寝れていなかったが、今日はちゃんと眠れる気がした

11/26/2023, 2:27:03 PM