『あれ、こんなだった?』 テーマ:セーター
「お?」
収納から引っ張り出してきた、鮮やかなブルーのセーター。
虫食いはないか、ほつれはないか、眺めていた時のこと。
なんだか違和感を覚えた。
「こんな色だったっけ?」
ベッドに広げてあちこちから見る。右から左から上から下から。
なーんだか、違和感がある。
「なあ、コレこんな色だったっけ?」
「えー?」
リビングに居る彼女を呼ぶ。すぐ、スリッパのぱたぱたした足音が近づいてきた。
「知らないよお。そんなセーター覚えないし」
「去年家でよく着てたと思うんだけど」
「去年は私、一緒に住んでませーん」
そうだった。彼女と同棲を始めたのはつい最近だった。
「よく着てたんなら写真とか残ってないの?」
「あー」
言われて、スマホの写真フォルダを漁る。
一年前くらいの写真。同じセーターを着ている自撮りが運良く残っていた。
残っては、いたけど。
「同じか……? いーや微妙に違わないか……?」
「もーめんどくさいなあ。普通に洗濯して色落ちしたんじゃないのお?」
彼女は頬を膨らませ、リビングに戻ってしまった。
やっぱ色が落ちたからちょっと違って見えるのか?
「……とりあえず一回着てみるか」
着ている服を脱ぎ、ほんのり収納の香りが漂うセーターに着替える。
それで姿見の前に立ち、色々ポーズをとってみる。
「分からん。同じ気もするし、違うような気もしてくる」
鏡に映った自分の姿をガン見する。遠くから近くから。
やっぱり違和感が、いやゲシュタルト崩壊してきた。
アレだ。朝靴下探してるとき、セットのはずなのに微妙に色違って見えるアレに近い。めっちゃ焦るよね、アレ。
「やばい沼にハマった。もう何も分からない」
「ウッソ、まーだそれやってんのお?」
また、スリッパのぱたぱたした足音。振り返ると、彼女がひょっこり顔を覗かせていた。
「だってさあ」
「気にしすぎだって! 久しぶりだし違って見えても普通だって!」
「でもさあ」
「もー!」
眉をきゅっと上げ、彼女が怒りだす。まずい、ダル絡みし過ぎた。
しかし、彼女は突然近づいたかと思うと「うぅん?」と目を凝らした。
「何だ?」
「アナタそんなだった?」
まじまじ見られて恥ずかしくなり、顔を逸らす。
背後にあった姿見に自分の顔が映った。言われてみれば、何か違う気が。
「ちょっと思ったんだけどさ」
目元に皺なんてあったか? と冷や汗をかいている中、彼女が畳みかける。
「アナタのその違和感って、もしかして加齢じゃ」
「よし、この話は終わりッ!」
2024.11.24
11/24/2024, 3:17:01 PM