ジーキャー

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「ありがとう、ごめんね」
 そう、彼女は呟いた。
 彼は知っている。彼女はもう長くないことを。
 病気に冒され、医者でさえ彼女の病気には、匙を投げるほどに侵攻した病気を治すことはできない。
だから、彼女は悟ってしまった。医者に告知されてきたときからずっと。もしかしたら、希望を抱いていたかもしれないが。
 けれど、現実は彼女に対して残酷を孕ませる。逃れることすら許さないと言う風に
 そんな彼女を支えているのが、幼馴染みの彼彼は彼女のためになることを自分から進んで行なった。病院への付き添いもそう。世話しない彼女の両親に頼まれているのもあるが、それはただの切っ掛けに過ぎない。
 彼はただ彼女のことが好きだから、自分から進んでできることを行なっている。想いを伝えてからも同じ。
 しかし、彼女は負い目を感じていた。病気の自分の世話よりも、彼にはするべきことが、やれることがあったはずなのに。
その時間を病気の自分に充てている。そのことで負い目を感じていた。
 彼はそんなことを気にしてなんかいないのに。むしろ、彼女の助けになれることが嬉しいまであるというのに。
 彼と彼女のすれ違いは続く。一緒の時間を過ごしているとしても、想いはすれ違うのみ。
 やがて、彼女は寝る時間が長くなった。起きている時間は短くなっていた。彼との時間も比例して短くなっていく。
だが会えた時には自分の体力を忘れてしまうほど、嬉しく感じている自分も彼女にはあった。
 そして、彼女は長い闘病の末に帰らぬ人となった。彼女の骨が埋葬されている墓の前で彼は呟いた。
「ありがとう、ごめんね」

12/8/2024, 11:05:45 AM