にえ

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お題『軌跡』
タイトル『あしあと』

 皐月のアルバムを整理していると、興味津々の皐月とコナツがやって来た。
「おかあさん、なにしてるのー?」
「これはね、さっちゃんがこんなに大きくなりました! という記念……記録……いや、足跡みたいなものね」
 あしあと、と聞いた皐月は写真と自分の足の裏を見比べ、首を捻っている。
 こういう天然でしか出せないボケもかわいいけど、今しか見れないかと思うとさみしくもある。だから今のうちに堪能しておかねば。
 そういえば皐月も大きくなったよなぁ……コハナちゃんと出会った頃はまだおしゃべりもカタコトだったのに、気がついたら口が達者になっている。
 浩介さんは出張から帰ってくるたびに皐月の成長に驚いていて、背が伸びただの少し重くなっただのと、それを大袈裟だと思っていた。でも、こうしてアルバムを眺めていると成長の早さに驚く(それにしてもさすがに『もう嫁に行った? まだ? あぁ、よかった……』は大袈裟だと思ってる)。
 そんなことを思いながら写真を並べていて、ある重大なことに気がついた。
「あ! さっちゃんのマイスイートとの写真がない!」
 いつも一緒にいるから気づかなかったけど、コハナちゃんとの写真が一枚もない。
「白石さんにお願いして、一緒にコハナちゃんとお写真を撮らせてもらおう!」
「うん!」

 そして翌日、白石さんのご快諾のもとスマホのカメラとデジイチでたくさんの写真を撮った。それはそれはもう、こん限り。
 出会った時をイメージして、盲導犬としてのお仕事中のコハナちゃんとさっちゃん、オフモードのふたり。おさんぽリーダーたちも一緒に。公園で戯れる皐月とコハナちゃんとコナツ……。
 白石さんは、
「見ることができるなら、さっちゃんとコハナのウエディングドレス姿を拝みたかった」
と言って寂しそうに笑った。
 皐月はウエディングドレスと聞き目を輝かせて、
「コハナちゃんもいっしょにおひめさまドレスをきれるの?」
とテンション爆上がり。
「それじゃあコナツはお義母さんと私と3人で列席しよっか」
 コナツの、きゅ〜ん? といういかにも『ワタシ、ワカラナイノデスガ?』風な鳴き声に私も白石さんたちと一緒になって笑ったけれど……白石さんの寂しげな笑顔が引っかかって、何か胸にざわめくものが住み着いた。
 そんな気がした。

4/30/2025, 10:27:29 AM