黒山 治郎

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人間の感情は反する物の方が距離は近い
小銭の表と裏の様に些細な事で
弾かれるが如く、なり変わってしまう。

ぱしんっ

「聞いておるのか、この戯け者!」

あぁ、いや
弾かれたのは小銭ではなく
無防備だった己の頬であったのか。

酷薄というに相応しい人相と
冗長に流れ続ける継承話は
心底、億劫でしかなく
関心が離れ久しい為にも
気付くのが遅れてしまった。

「これは、父上様に大変なご無礼を…
失礼仕りました、ご容赦下されば
これ幸いと存じまする」

不服を隠そうともしない口吻で
次は無いと言い放つ、その人
今となっては頑強さしか残らず
それが仇となり頑迷固陋な有様で
幅を利かせるだけとなった者。

「俊傑の血に連なる己が身に
恥じる事のなきよう
自己研鑽を怠るでないぞ」

確かに、鹵掠の限りを尽くし
俊傑とまで謳われる程に上り詰めた
綴れた才覚は有るのだろうが…

当時の優越感は見る影もなく
今や劣等感すら風前の灯火と相成れば
天網恢恢疎にして漏らさずとは
誠の詞なのだなと胸中でせせら笑った。

ー 優越感、劣等感 ー

7/13/2024, 7:35:44 PM