無音

Open App

【80,お題:柔らかな光】

「俺さ、あと1年くらいで死ぬんだよね」

「......は?」

カミングアウトは突然だった
あまりにも自然に、なんでもないことのように言うものだから
驚いてコントローラーを握った手が止まった

その隙に颯爽と必殺技を決め、ゲームセットの音楽が流れる

「え?いや、...マジ?」

「うんマジ、心臓と肺に疾患があって最低1年、運が良ければギリ3年いくかってとこかな」

なんだよそれ、てかしれっと勝ってんじゃねえよ
だが、冗談言うなよと笑うには君の瞳はあまりにも真剣だった

「だからさ、ちょっと付き合ってくんね?」

「何に?」

そう言うと君は、子供がいたずらを思いついた時のような顔でニヤッと笑った

「”死ぬまでにしたい100のこと”」




そこから、僕と君の旅が始まった
君のやりたいことノートには、それはまあいろんなことが書かれていた

駅前のパン屋のサンドイッチを食べる、とか 映画を観に行く、とかならまだ良い

問題なのは、君がかなりの気まぐれだと言うこと
きっとその場で思いついたことを書き留めたのであろうそのノートには、時々思いもよらない願いが転がっていることがある

「いや...水中でラーメンを食べるって...なんでこんなの書いたん?」

「おー、そんなこと書いたなぁ...理由は知らんけど」

と、まあこんな具合である
彼のノートに書かれるがまま、僕たちはあっちへ行ったりこっちへ行ったり
しまいには、学校に忍び込むなんていう一歩間違えば通報ものの行為までやってのけた


でもまあ、運命と言うのは残酷なものだ


「”最低1年”とか言うからさぁ、1年は絶対一緒にいれるって思ったんだけどなぁ...」

柔らかな光に包まれ、穏やかに目を閉じる君を見る
その姿はまるで眠っているようにしか見えないが、きっともう目は覚まさない

「やりたいことリスト、半分も達成してないじゃん」

彼に死に際はとても静かだった
苦しみに喘ぐこともなく、ただただ静かに穏やかに
一度、寝てるだけだと勘違いしたほどに静かな死だった

「まあ、苦しまず逝けたのならよかったよ」

淡く柔い光包まれた君が幸せそうに微笑んだ気がした

10/16/2023, 2:12:53 PM