12
物心ついた頃から"苦手な音"というものが存在する。
例えば身近な音であれば『ハンドドライヤーの音』『人混みの喧騒』等がそれにあたる。
レアなケースでいえば『神社に初詣に行った際に流れている笙の音』であろう。
それらの音が鼓膜を震わすと、途端に身体の内側から何かにかき混ぜられているかのような得体の知れぬ気持ち悪さ―――不安感がぶわり、と湧き上がってくる。
頭の中はその音を一刻も早く遮断したいという思考でキャパオーバーを起こし、何にも手がつかなくなる。
いい大人になった今では、さすがにその場にうずくまり何もできなくなるといった事はなくなった。予防策も、例えば外出時は耳栓代わりにイヤホンを付けていく等、自分をコントロールするべく様々な策を講じている。
だが、それらの音を聞いた際の不安感は変わらず有り、部屋に戻った後は暫く気持ちを元に切り替えられない。
今日は図らずとも、イヤホンの電源が途中で切れてしまった。
人混みから急いでマンションの部屋に逃げてきたのだが、それでも気持ちは切り替えられない。
俺は部屋の片隅に一人うずくまった。
―――あの男が、早く帰ってきたら良いのに。
12/7/2024, 3:46:03 PM