/鏡/
僕は鏡に映らない。
水溜まりとか写真とかには映るけど、鏡だけ。よく分からないけれどそういうものらしい。
周りの人達は当たり前のように僕を受け入れていて、身支度の時大変だね、とたまに同情されるくらいで至って普通に暮らせている。
そんな周囲をありがたく思いながらも、同時に僕は軽蔑していた。そして直ぐに自己嫌悪に陥る、いつものパターンだ。
僕以外の全てが映る鏡。
異端を受け入れてくれる周囲。
優しい世界の筈なのに全てをめちゃくちゃにしたかった。誰に何を言っても変えられない日々から逃げたくて、鏡に向かって手を伸ばす。当然のように、鏡に映ることも、まして鏡の中に入ることも出来やしなかった。
手が鏡に触れた時にたてた小さな音だけを、手繰り寄せるしかなかった。
8/19/2023, 8:47:42 AM