別に大したことはない
僕が話して
それを聞いてくれる人がいた
いろんな人に何度も話しているはずが
いつまでたってもまとまらない
途切れて 詰まって
駆け足で過ぎて
飛んでは 戻って
ぐちゃぐちゃになって
そして
突然まとまって
また崩れて
心はどんどん焦っていくのに
頭は妙に冷静に
まるで他人事のように語られる
『僕』の話
あの人はそんな話を
全部聞いて
たくさん悩んで
そして
ふわっと笑って
「そっか」
とひとことだけ呟いた
それが何よりも嬉しかった
初めて この人ともっと一緒にいたいと思った
*
それから
僕はたくさん話をして
あの人はいつも静かに笑っていていた
僕の世界を広げてくれた人は
自身の世界をゆっくりと畳んで
塵ひとつなくきれいに片付け
僕のそばから突然消えた
*
気がつけば 僕は話してばかりで
気がつけば あの人は何も語ってはくれなかった
喜びも 怒りも 哀しみも 楽しさも
あの人がどんな風に思い 考え 行動していたのか
僕は何も知らないまま
*
願わくば あの奇跡をもう一度
もう一度会えたなら
僕はきみを救えるだろうか
No1.『あの奇跡をもう一度』
10/3/2024, 9:37:23 AM