※「星のかけら」の天体観測部の部長と副部長の話の続きです。すみません、今回で終われなかったのでもう一作は続きます······。
書いてる本人はBLじゃないと思って書いてますが、ボーイズ達のラブが苦手な方は十分にご注意して頂いた上でお読み頂ければ幸いです。
部長から夏休みの初日早朝、家に突撃を受けたあの後の話。
「あ、支度なんだけどさぁ〜、望遠鏡必須、あと一泊分の着替えもよろしく〜」
リビングに通されお袋から出された麦茶と菓子を口にしながら、仕方なく準備をするべく部屋へ戻ろうとした俺の背中に向けて部長はこれまたゆる〜く声を掛けてきて。もはや俺に拒否権など無いと悟っていたので、背後を一瞬生気の無い瞳で一瞥したあと、足取り重く自室へと向かい手早く準備を済ませ部長と二人、我が家を出立した。
部長から渡された青春なんとか切符で鈍行列車を何回も乗り換え、その途中でたった一両しかない明らかなローカルオブローカル線なんかにも乗車したりした。それなりに長い旅路だったので、ぽつりぽつりとした会話を道中部長とせざるをえなかったわけなのだが。
「······ていうか部長、星のかけらって何すか?」
“星”という単語と望遠鏡の存在に釣られてホイホイこんな所まで勢いでついてきてしまったが、部長が口にした“星のかけら”について俺は何もわからずじまいだった。
俺の当然とも言える問い掛けに部長は心底驚いたような表情で、夜闇みたいに真っ黒な瞳を真ん丸にする。
「うっそ〜······ゆーやくんになら伝わると思ったんだけどなぁ〜······」
そっかぁ〜伝わってなかったのか〜、と部長は腕を組み、ほんの少し寂しげな顔をして視線だけ俯かせた。
「あのねぇ〜、俺、むかぁし見たんだよ〜“星のかけら”。夜に外眺めてたらさぁ〜、キラッて光るやつがヒュンッ! てさぁ〜、一瞬で空から落ちたんだよ〜」
部長は電車の天井を見上げ、まるでその時のことを懐かしんでいるかのように語る。
「その時にさぁ〜、俺、思ったのね〜? 一瞬で落ちていったあの“星のかけら”をさ、一体俺含めて世界中で何人の人が見たんだろ〜? ってさぁ〜。きっと、誰にも見られることなく独り寂しく落ちていくやつも居るんだろうなぁ〜って。それって、なぁんか悲しいよなぁ〜ってさ〜」
「······要するに」
話し方までゆるっゆるの部長が今話したことを簡潔に言えば、つまり部長の言う“星のかけら”とは······。
「部長は、流れ星を探しに行きたいっつうことで合ってます?」
「そうとも言う〜」
部長はへにゃ笑いでこちらを向き、「ゆーやくんになら伝わると思ったんだぁ〜」とご機嫌そうにゆらゆらと上半身を振り子みたいに左右へ揺らす。俺より身長の高い男がそんな仕草しても全く可愛くないからやめてほしい。
「ていうかさぁ〜、ゆーやくん、なぁんか俺と距離取ってなぁい? あ、席のことじゃないよ〜? 心の距離のことね〜?」
突然、今までひた隠してきた本音を指摘され思わず肩がビクッ! と反応しそうになるのを何とか抑えた。
「······何言ってんすか。別に普通だと思いますけど。つうか、部長もそういうの気にするんすね」
「だぁ〜ってさぁ〜? いつでも何処でも部長呼びだし〜」
「そりゃそうでしょうよ、あんた部長なんですから」
「や〜だぁ〜! 俺もっとゆーやくんと仲良くなりたいのに〜! “部長”呼びだとめっちゃ距離感じて悲しい〜!」
「えぇぇ······」
明らかに「面倒くせぇー」みたいな声音を漏らしてしまった。何を言い出すのかと思えば······そんな子供みたいな我儘を子供みたいな拗ね方しながら訴えないでほしい。何度も言うけど可愛くないから。いや······まぁ、少し長めでフワフワとした栗色の髪の毛とか、肌の白さだとか、漆黒の瞳が嵌め込まれている目の造形は綺麗な二重でパッチリとしているし、世間的に見れば整った顔をしているんだとは思うが。
「······じゃあ、じゃあですけど。こう呼んでほしい、みたいな呼び方、あったりするんすか?」
こんな、初対面の時に済ませておけよ! と何処かからツッコミが飛んできそうな内容を試しに聞いてみたら、部長は突然目をキラキラと星のように輝かせて俺の両肩をガシッ! と掴んでくる。
「え! え! 言っていいの? あのねぇ〜! 俺、名前付きの先輩呼びがいいなぁ〜!」
「あぁ、なるほど? じゃあ、星観先輩」
「ちっがぁ〜〜〜〜〜〜う!!」
部ちょ······星観先輩は、それはもう首が取れるのではないかと思えるほどの勢いでブンブンと横に振り、否定の意を示す。
「俺〜! 名前って言ったじゃ〜ん! それは名前じゃなくて苗字だよ〜!」
「えぇ······じゃあ先輩の名前教えて下さいよ······」
「俺の下の名前知らないのぉ〜〜〜!?」
先輩は「ガーン」という効果音がついていそうなレベルでショックを受けたようだった。いや、まぁ、あれか······今のは流石に俺が失礼だったか······でも知らなかったもんは知らなかったんだから尋ねる以外の選択肢なかっただろ、今······。
「······不出来な後輩ですみません。今のは完全に俺が悪かったと思うので、代わりにちゃんと先輩が呼ばれたい呼び方で呼べるよう善処はしたいと思いますんで······」
そう詫びれば、それまで不服そうに唇を尖らせていた先輩の表情はあっさり切り替わり、またしても瞳が輝き出している。もしかしてこの人······チョロい?
「うん! あのね、俺の名前はね! 望(のぞむ)だよ〜! だから、望先輩って呼んでほしいなぁ〜! 俺だってゆーやくんって呼んでるわけだし〜!」
「はぁ······わかりましたよ。ただし、部活関係の時は今まで通り部長って呼びますからね」
「うん、わかった〜!」
「ところで部長、この電車あと何駅ぐらい」
「ちーーがーーうーーー!」
話が漸く解決したところで俺は降車駅の確認を取ろうと思ったのに、そんな俺の声に被せて食い気味に部長の声が重なってきた。ダメだ、そろそろ頭ピキりそう。
「何が違うんすか!! 天体観測部としての活動なんだから部長で問題ないでしょうが!!」
「これ部活じゃないも〜ん!! 俺がただ個人的にゆーやくんに付き添ってもらえば安心かなぁ〜って思って誘っただけだからこれ部活と関係ないも〜ん!! あそびましょって言ったじゃん! って朝も言ったじゃ〜ん!!」
「部活じゃねえのかよ面倒くせぇ!!」
······そんな疲れる遣り取りがありつつ、何とか辿り着いた目的地は、隣県にある小さなキャンプ場だった。キャンプ場とは言っても、そこはどちらかと言うとコテージの貸し出しの方がメインとなっていて、部長は用意周到といえば良いのか小賢しいといえば良いのか、なんとコテージの予約を当然のように済ませていた。しかも問い質したところ、なんとその費用は部費から出したと吐かしやがったので、それを聞かされた俺は電車の中でブチ切れそうになった。青春なんとか切符の費用も同様だと言う。胸ぐら掴んでやろうかと思った。アンタ、そんな大事な話何一人で勝手に決めてんですか!! つうか副部長の俺が知らないってどういうことだよ話ぐらい通しとけ!! これは部活じゃないとかホザいてたのは何処のどいつだ!! と叫び散らかしたかったが、何とか、何とかどうにかこうにか腹の中へとそれらを押し込んで、にへら顔をキッと睨むに留めた。
とりあえず到着してすぐコテージへと向かい荷物をそれぞれの部屋へ起き一旦身軽になった俺たちは、当初の目的──星のかけら探し──を果たすべく、世界が夜という名の神秘的なカーテンに覆い尽くされる時間帯となるまで、各々準備に取り掛かるのだった。
◇◇◇◇◇◇
書き終わる······予定だったのになぁ······。
電車内での二人の会話を思い付いて書きたくなってしまったのだからしょうがない。
あとは無駄に登場人物達に背景持たせすぎてダラダラ導入とかで垂れ流したりするのも長文になってしまう要素だからどうにかしたいけど、設定思い付いたらちゃんと作中に入れたくなるし一次創作なんだから少しでも読み手の人に頭の中で文章の光景が想像しやすいようにしなきゃならぬ。塩梅難しい。
1/12/2025, 5:45:40 PM