「俺の投稿スタイルなら簡単なお題だと思ったんよ」
それがまさか、16時までかかるとはな。某所在住物書きはため息をつき、スマホを見つめた。
「『裏返し』だ。俺は前半の『ここ』で300字程度の無難な話題入れて、『――――――』の下に長々連載風の小話書いてるからさ。これを単純に、裏返しにすりゃ良いと思ったわけよ。
つまり前半でバチクソ短い小話書いて、後半で長々『ここ』で書いてるような話題1000字程度」
試した結果が酷かったワケ。
物書きは再度息を吐いた。
「300字程度の短い小話は普通に読めるが、後半で長々校長のスピーチレベルのハナシされるとか、何の拷問だよっていう」
――――――
最近最近の都内某所、某アパートでのおはなしです。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者が、家具最低限の寂しい部屋に、ぼっちで住んでおりまして、
そこには何故か、リアリティーガン無視の子狐が、時に二足歩行で、時にしっかり人間に化けて、1週間に1〜2回、不思議なお餅を売りに来るのでした。
ファーストコンタクトは3月3日のひな祭り。
1個たったの200円。主食から主菜、低糖質、甘味までなんでもござれのラインナップ。おまけに食べると少しだけ、心の毒を抜いてくれる、現代人の懐にも精神衛生にも優しいお餅なのです。
今日もコンコン子狐が、防犯意識強化の叫ばれる昨今、唯一扉を開けてくれる捻くれ者の、子狐にとってのお得意様の部屋にやって来ます。
右手に透かしホオズキの明かりを、左手に葛のツルで編んだカゴを持ち、
ドアを開けて、狐を部屋の中に招き、お餅を売って買ってそれでおしまい、
だった、筈なのですが。
「お花さん、こんばんは」
鼻の良い子狐、捻くれ者がその毒性ゆえに隠していた花の底面給水鉢を、くんくん見つけ出し、引っ張り出して、コンコン、おしゃべりを始めたのでした。
「お花さん、なんていう名前ですか」
それはそろそろ見頃を終える、捻くれ者の故郷の花。
毒にも薬にもなる、白いキンポウゲ科の花でした。
「子狐、こぎつね」
「おとくいさんとは、長いの? そっか。お花さん、ずっとずっと、おとくいさんと一緒に居るんだねぇ」
「何をしてる、花が喋るのか」
「たまに、お部屋が暑くなる?光が無くなってから?きっと深夜エアコン切ってるんだよ。『暑いからエアコンつけて』って、伝えてあげる」
「エアコン?」
「そろそろ窮屈?根っこ?うん分かった。伝える」
「おい、まさか本当に、」
「おとくいさん、昔々初恋のニンゲンの毒にやられて、一晩だけお花さんを抱えて泣いたことがある?」
「待て、何が望みだ、取り引きしようこれ以上私の黒歴史暴露するのやめてくれ頼む」
「『自称人間嫌い』は優しさの裏返しで、『自称捻くれ者』も実は真面目の裏返し?」
「こ ぎ つ ね」
コンコンコン、コンコンコン。
今回のお題が「裏返し」なばっかりに、藤森の部屋ではその後10分程度、捻くれ者の「捻くれ者」である由縁と、その裏返しの大暴露大会が、続いたとか、いくらかの賄賂で穏便に収まったとか。
不思議な子狐と捻くれ者による、「裏返し」をお題にした苦し紛れのおはなしでした。
おしまい、おしまい。
8/23/2023, 7:34:13 AM