水上

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言葉というのは、事実に彩りをそえたり、正確に伝えたりする一方で、時にその事実を空虚にみせることもある。そう祖父に教わった。

飛行機の時間に合わせて、いつもより二時間早い閉店。クローズの看板の代わりに、閉店のお知らせの張り紙をした。最終日まで付き合ってくれた優しい従業員は、いつもより大きなリュックに私物を詰め込んで背負った。最後だなぁ、と密かに感傷に浸る。そう、本当に最後なんだ。

「ねー純くん」
「はい」

真面目で、素直で、わかりやすい。今どき珍しいくらい、名前通りにピュアな子。声を掛けると、瞳に一瞬緊張が走る。俺を警戒したんだろう。嫌われてるなぁ。

「今まで、ありがとね?」
「……いえ、こちらこそお世話になりました」

あんまり上手じゃない作り笑い。ぎこちない。でもそこがいい。嘘がつけないんだ、俺と違って。そのまま素直なきみでいてね。なんて、声には出せないけど。

「俺、きみと会えて楽しかった」

たぶん信じてなんてもらえないけど。それでも最後だから。今だけ、心からの本音を言わせて?たとえ君の心に届かなくても。


〉さよならを言う前に

前に載せた絆に干渉する人が、転職する前のお話。

8/20/2022, 11:44:43 AM