もう一歩だけなら、踏み越えてもいいかな。
線は見えてるの。ちくちくした有刺鉄線の線が。
“越えてはいけないよ”と、誰かの声がするの。
ずっと憧れている、大好きな誰かの声がするの。
でも、あとちょっとだけ進んでもいいかな。
もう一歩だけなら。
私、分かってるつもりなの。
白線から外に出てしまったら、
アスファルトには人喰いザメが泳いでいるの。
線は目の前にあるの。
触ったら焼けるような熱いレーザーの線が。
信号機はずっとひまわりのように光っている。
止まるべきで、でも、止まらなくたって咎められない色。
だから迷ってしまう。基礎的な性善説に
当てはまってしまう前に、動いてしまいたい。
ちかちかと点滅する黄色を進んだところで、その先に
何もないことも、それが危ないこともしってるけど。
私が後悔するのも、彼を傷つけるのも分かっているけど。
だから私、ここで止まっているの。
変わらない信号機の点滅を体育座りでずっと数えているの。
だから、暇だから考えてしまうだけなんだって。
熱いレーザーを帽子で避けて、
海へ落ちないように白線の上を進んで、
ずっと大好きなあの人に会って、
有刺鉄線さえ抜けられるのならばどんなに良いかって。
赤になりきれず青にもなれない、優柔不断な向日葵の黄色。
“貴方だけを見つめる”なんて、そんなの馬鹿みたいだよね。
でも、ここはやっぱり暗いから。
もう一歩だけなら、許される気がするの。
貴方に近づきたい、私を許して。
「もう一歩だけ、」 白米おこめ
8/25/2025, 5:17:51 PM