未明

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「雨に佇む」

最悪だ。

今日はせっかくのお出かけだと言うのに
外ではザァザァと音を立てて雨が降り続いていた。

窓を開けると、じっとりとした風が
全身にまとわりつく
まるで執着でもしているように
じわじわと僕の、気力すべてを奪っている気がした。

諦めよう。

気持ちを切り替え、改めて何をしようかと考える。

数十分考えてみたものの、特にやることがなく困ってしまった。
そんな時にふとあの子のことを思い出した。

今何をしているんだろうか。

と、ふと興味が湧いてきた。

僕とあの子の家は小さい頃から隣同士で
記憶が確かならば、今も隣に住んでいるはずだ。

……しばらく顔を見ていないけど、大丈夫だろうか。

残念ながら僕とあの子は中学卒業と同時に疎遠気味で
ここ数ヶ月は会話も交わしていなかった。

段々と増えていく不安を他所目に、僕は思い切って
会いに行くことにした。

案の定、あの子の家にはすぐ着いた。

やけに暗い家の中。

もしかして、引っ越してしまったのだろうか?
いや、でも人が住んでいないにしては妙に小綺麗と思った。

留守にしているんだろうか、と思いつつ
そっとドアノブに手をかけた。

思い返すと、昔は親同士も仲が良くて
好きな時にこうやって出入りしてたっけ
と、暖かな思い出が蘇ってきた。

ゆっくりとドアノブを回すと、鍵はあいていた。

もし、知らない人が住んでいたら、と
一抹の不安に駆られたが
きっとあの子は居るだろう、と信じ
部屋に向かった。


……居た。

かつてあの子と遊んだ子供部屋に向かうと
部屋の真ん中で、ひっそり佇むあの子を見つけた。

あの子は泣いていた。

僕は触れようとして手を伸ばした。
どうしたの?と声をかけてあげたかった。

けれど、それは叶わなかった。
身体が思ったように動かなくて、喉からは息が漏れるだけで
ただ、見つめることしか出来なかった。

僕は無力だ。

どうにか体を動かし、あの子に触ろうとした
……が、出来なかった。
実体が無いみたいに、するりとすり抜けてしまったのだ。

間違いなくあの子は存在しているし、ここが夢な訳でも無い。
なのにどうして──。

仕方なく顔を上げて見渡すと、僕は目を見開いた。
鏡に、映るはずの姿が見えないのだ。
あの子の姿はあるのに、まるで存在しないかのように
僕のたっている空間だけぽっかりと空いていたのだ。

僕は酷く動揺した。
もしかして、僕は死んでいるのだろうか。

でも、意識も記憶もあるし
幽霊みたいに手足が透けてる訳でもない
息だってしてるし、生きて……。

嘘だと思い込もうとする、が
目の前の光景が現実だ、と無常にも突きつけてきた。

手が震える。

じゃああの子が泣いているのは──。

あの子の手元を見ると僕の写真があった
その脇にはよく見知った、お母さんの文字が見えた。

(うちの子は先日旅立ちました
手紙での報告になって、ごめんなさいね。
今まで仲良くしてくれて本当にありがとう
きっと幸せだったとおもいます。
改めて、本当に今までありがとうございました。 )

悲報を知らせる手紙。

その時僕はやっと理解した
あぁ、いつの間にか死んでいたみたいだ

僕は何も出来ない。

もう、声をかけることも、触れることも
あの子の目に映ることも……
もう、二度とできない。

涙がひとつ、ふたつ、とこぼれ落ちる。
止めようとしても止められない。

8/27/2024, 11:35:31 PM