甘ったるい金木犀のにおいがする。
沈みかけていた意識がすくい上げられていく。強引に引っ張られ、利き手に何か大切なものを握らされ、ぼやけた輪郭を薄紅色の花弁が攫っていく。
――願わくば、
そう言って穏やかに微笑んでいる、ように感じた。それぞれに繋がれた手が離れていってそれが寂しく、とても情けない。私のせいだ、全部私が悪いのに、どうして。
目が覚めたら自室の畳の上に転がっていた。開け放された障子の外、何かの染みで汚れた縁側の向こうに曇天の庭があった。見える限りすべての植物は朽ち、白かったであろう玉砂利は土埃か何かでくすんでいる。だけど、わずかに湿気を含んだ風がよく知るにおいを運んでくるからまだどこかで生きているのだろう。
もう、そんな季節なのか。知らない内に随分と時が進んでしまった。そうだ、着物。みんなが贈ってくれたあの着物はどこにあるのだろうか。今なら丁度いい。凝った意匠の私には豪華すぎるそれを今なら着れるはずなんだ。
「はやく、みつけないと」
この季節が終わってしまう前に替えてしまわないと、きっとまた怒られてしまうから。
【題:衣替え】
10/22/2024, 3:51:29 PM